
体型へのコンプレックスから摂食障害に
── まず、摂食障害になったきっかけについて教えていただけますか。
幼少期から、細くて華奢な人が美しいと思っていたので、自分の身体がなかなか好きになれませんでした。
摂食障害になったのは、二十歳のころです。体型へのコンプレックスがきっかけで食べないダイエットを始めて、拒食症になってしまって。そこから過食に移行していきました。当時は、過食で体型が変化していくことが本当に辛かったです。
ちょうどそのころ、芸能のお仕事をしていました。見た目を評価されて、人と比べられる。そういう職業だったので、余計に自分に自信が持てず、「痩せていなきゃ」という気持ちが、どんどん強くなっていきました。
── そのころ、運動とはどう向き合われていたのしょうか。
どうしても痩せたくて、当時の私が選んだのが走ることでした。でも、走り方もわからないまま、食事のバランスも崩れた状態で走っていたので、体がついてこなくて…。
振り返ると、あのころの私にとって運動は、自分を許すための条件のようなものでした。「今日は走ってないから食べてはいけない」「走らないと自分を肯定できない」。そんなふうに思っていたんです。
食べないまま走るので、反動がきて、過食の歯止めがきかなくなることもありました。一生懸命走っているのに痩せないし、体はずっと辛い。そんな日々を送る中で、ある時、疲労骨折寸前になってしまいました。
それまでは「とにかく頑張ればうまくいく」「我慢すれば成果が出せる」と思っていました。でも、そんなことはなかったんです。怪我寸前になって初めて、「これは正しい方法じゃないのかもしれない」と、認識することができました。ちゃんとした知識を持って食事や運動に向き合わないといけない。そう思わせてくれた、大きなきっかけでした。
パワーリフティングとの出会いが『自分なりの美しさ』について考えるきっかけに
── そこから運動との向き合い方はどのように変わっていったのですか。
整形外科の先生に「この状態だと良くないから、筋トレをしたほうがいい」と言われたのが始まりでした。ちょうど20代後半で、30代が見えてきていたころです。「このまま食事が取れない状態で歳を重ねるのは良くないかもしれない」「ここで変わらなきゃいけない」という思いもありました。
その後、夫の後押しもあり、ジムに入会したんです。そこで、色々な方が競技を通して身体を変えていくのを目の当たりにして、トレーニングで身体って変えられるんだと実感できました。
筋トレを続けられた一番の理由は、「超回復」という考え方を知れたことでした。トレーニングをした後の筋肉は、休んでいる間に修復されて、少しずつ強くなっていきます。休むこともトレーニングのうち、と言われるくらいなんです。だから私は、筋トレで初めて「休むこと」を肯定できました。
これが本当に大きな転機になったんです。有酸素運動をしていた時は、毎日やらなきゃと追い詰められていたのに、筋トレは2、3日休んでまたやればいい。競技を始めてからは、コーチの方が口をそろえて「ちゃんと休め、やりすぎたらただ壊れるだけだよ」と教えてくれました。その言葉がきっかけになり、「休んでもいいんだ。むしろ休まなきゃいけないんだ」と思えるようになりました。運動強迫から私を引き離してくれたのは、まちがいなく筋トレだったと思います。
── 身体や食事への考えは、どんなふうに変わっていったのでしょうか。
筋トレを続けるなかで、パワーリフティングという競技に出会いました。
実は、その少し前から、自分の体の強さには気づいていました。舞台の稽古で筋トレをすると、男性の俳優さんと競るくらい動けたんです。「もしかしたら、体の強さは私の武器なのかもしれない」と思うようになりました。実際に筋トレを始めたら、デッドリフトも軽々と持ち上げられて、周りから「競技をやったほうがいい」と勧められることも沢山ありました。
そのとき、やっとコンプレックスが長所に変わったんです。筋肉質なことや背が低いことなど、摂食障害のきっかけになった体型へのコンプレックスが、パワーリフティングでは全部、武器になりました。トレーニングを続けるうちにパワーリフティングで日本チャンピオンにもなることができ、それがまた、自信になっていきました。
何より大きかったのは、食べることへの見方が変わったことです。それまでは、食べることへの罪悪感が強くあったんですが、パワーリフティングでは筋肉を育てるために食べないといけない。「強くなるために食べる」という方向に考え方をシフトできたことが、摂食障害を克服していくうえで、力になってくれました。
そうして、徐々に価値観も変わっていきました。筋肉がついた体も素晴らしいと思えるようになったんです。昔憧れていた華奢な美しさとは違う、自分なりの美しさの基準をようやく持てた気がします。
摂食障害は、「自分の軸で生きても良い」と教えてくれた
── 摂食障害の症状と向き合っていた当時を振り返って、どんな思いでいらっしゃいますか。
当時、摂食障害は初めての挫折だと思っていました。でも、あの経験があったからこそ今の仕事ができていて、正直、今が一番楽しくて幸せなんです。なので、決してネガティブには思っていません。
昔の私は、人にどう思われるか、人と比べてどうかということを気にして、ずっと他人軸で生きていました。自分がどうなりたいのかということや、何が好きなのかも、わからなくなっていたんです。摂食障害は、そんな私に「自分の軸で生きても良い」と教えてくれたんだと思います。
この変化がきっかけとなり、人の長所を沢山見つけられるようにもなりました。パーソナルトレーナーとしての仕事をしていると、「これくらいしかできなくて」と、ネガティブな気持ちでいらっしゃる方も多いんですが、私はできるだけ「前回よりここが変わりましたよね」「一年前はこうだったのが、こうなりましたよね」と、いいところをお伝えするようにしているんです。20代の頃は人と自分を比べて「なんであの子はできて、私にはできないんだろう」と思うことも多く、人の良いところを見つけることが得意ではありませんでした。その視点を変えられたことが、本当に嬉しかったです。
そんな風に、自分自身との向き合い方が少しずつ変わるなかで、運動との関係も変わっていきました。今の私にとって運動は、自分を整えるためのものです。運動をしている間は、悩んでいたことを一時的に忘れられる。マインドフルネスのような状態を自分で作って、リセットできるんです。
ただ、かつての私のように、運動が「しなければいけないもの」になっている方もいると思います。そうなっている理由は、0か100かの思考があるからかもしれません。まずは、そこから抜け出すのが一番大事。
運動は、本当に好きなものをやるのが一番いいと思います。例えば、散歩も一つの運動ですよね。5分でもいいし、7割くらいでやめてもいい。今日は辛いなと思ったら、やらなくてもいいんです。「いつもこうしないと」と決めすぎないことが、大切だと感じています。摂食障害の方は、体調にもメンタルにも波が出やすいと思うので、ルールを作りすぎず、今の自分の状態に合ったものをやってみてほしいです。

同じ痛みを抱える人たちへ
── 最後に、いま摂食障害と向き合っている方や、その周りの方へ何か伝えたいことはありますか。
まず、「自分は摂食障害だ」と認識できていて、それを受け入れられていたり、変えたいと思えているのなら、その時点で回復への道は遠くないと思います。
私自身、たくさんのトライアンドエラーをしながら、少しずつ回復に向かっていきました。なので、三歩進んで二歩下がるくらいの気持ちで、焦らずにいてほしいなと思います。
摂食障害になる方は、真面目で完璧主義で、0か100かの思考になりやすいと思うんです。「食べてしまった、もう全部終わり」「今日食べすぎたから明日は食べない」と考えることもあるかもしれません。でも、一日食べすぎたくらいで、人の体はそんなに変わらないんです。うまくいかない日があっても「こういう日もあるよね、じゃあ明日からこうしよう」と割り切って、自分に厳しくしすぎないでほしいなと思います。
時には、できなかったことだけに注目してしまう瞬間もあるかもしれません。でも、変わろうとしている時には、必ず進歩があるはずなんです。「一口食べてみた」みたいなことも、大きな進歩。そういう小さな進歩を一つ一つ自分で感じ取って、自己肯定感を積んでみてほしいなと思います。
最後に、心身ともに健康でいるためには、食事も運動も睡眠も、もちろん大切です。でも、それは全部「自分を大切にする」ためのものであって、その逆ではないと思っています。自分を壊してまで、苦しいと思ってまでやるものではない。まず自分を大事にして、その上に食事や運動や睡眠がある。その順番を、忘れないでほしいです。自分にとって心地よいあり方を、トライアンドエラーの中で、見つけていってもらえればなと感じています。
田中亜弥さん ウェブサイト・公式SNSはこちら
Aya81 Personal Training Studio: https://www.aya81personal.com
公式 Instagram:https://www.instagram.com/tanakaaya81

