
中学生の時、ダイエットから摂食障害に
—— はじめに、摂食障害の症状が始まったきっかけについて、教えていただけますか。
中学受験を経て入学した中高一貫校の中学3年生の頃、日々の勉学が忙しくなっていく中で同級生から「最近ちょっと太った?」と言われたような気がしました。そんな一言から、ちょっとダイエット始めてみようかなと軽い気持ちで食事の量を減らし始めました。
最初のうちはすぐに体重が減ることに達成感を感じ、次第に一日に何度も体重計に乗っては数字に一喜一憂するようになりました。「食べる=いけないこと」という考えから抜け出せなくなり、ダイエットを始める前は約50キロあった体重も、35キロほどに減りました。月経が止まったりなど、身体の不調も目に見えて現れ、学校も通えなくなり、高校1年の夏頃から自宅で療養することになりました。
様々な病院にもかかり、「食べなければ良くならない」と言われても、どうしても「食べていいんだ」という気持ちにはなれませんでした。その時の私は自分は病気ではないと思っており、なかなか病識が持てなかったことをよく覚えています。
毎日暗いトンネルの中を彷徨っているようで、自分だけが世界に取り残されたような孤独感や焦燥感から、辛い時間も過ごしました。1番近くにいた家族もそんな私を見てとても辛く、どう接したらいいのかわからず悩んだと母が後で教えてくれました。
食事をたくさん食べてしまう過食の時期もあり、食べてしまった罪悪感で押しつぶされそうにもなりました。
『時間があらゆることを癒してくれる』
── その後、転機となった出来事などがあったのでしょうか?
私なりに、自分の居場所や役目を見つけようと必死で、自宅の近くの飲食店でホールのアルバイトを始めました。ふと、食事をするお客さんを見て、「みんな美味しそうに食べているな。美味しそうだな。」と素直に思いました。
家に帰ると、いつものように母が手料理を作って待っていてくれ、2年ほど口にしていなかったお肉を食べることができました。そのことが少しずつ自信に繋がっていき、食べてもいいんだと思えるようになっていきました。
少しずつではありましたが、食べることの罪悪感は減っていき、体重も戻り始めた頃、私の中で新たな目標が生まれました。
「私を悩ませ、苦しめてきた『食』について学びたい」
高校は中退していたので高卒認定試験を受けて、栄養を学べる短期大学へ入学しました。そこで栄養士の免許を取得し、卒業後はさらに調理師学校で調理の技術も学びました。私にとって『食』を志すことは使命のように感じ、学べば学ぶほどその楽しさに気づきました。
自ずと、いつか自分の店を出したいという夢を抱き、いくつかの店舗で修行をさせていただきました。令和4年の夏、念願叶って私の人生そのものとも言える喫茶時薬を、山梨県北杜市にオープンすることができました。
喫茶時薬では、築100年のお蔵で、昔懐かしくほっとするお料理やデザートでお客様に癒しの時間をお届けできるよう日々取り組んでいます。店名の時薬(ときぐすり)には、『時間があらゆることを癒してくれる』という意味があり、当店にいらっしゃるお客様にも癒しのお時間を過ごしていただきたいという願いが込められています。今年で4年目になりますが、子どもがまだ小さく、時々お休みもいただきながら、仕事と家庭のバランスを保ちつつ楽しく仕事に向き合っています。
摂食障害で当時悩んだ時間のおかげで、料理の道へ進もうと思いました。私にとって『食』とは人生そのものであり、お客様に心温まる時間やお料理をお届けしていくことが私の最大の幸せです。

── 回復の過程で、気持ちの面での変化などはあったのでしょうか?
私の場合、回復に向かい始めたきっかけの一つに、病識を持つことがあると思います。
拒食の時期に、鏡に映る自分の身体を見て明らかにおかしいと気づき急に怖くなりました。このままでは、命も危ないかしれないと恐ろしくなり、私は摂食障害(摂食症)なんだと認めることができました。食べることの罪悪感はなかなか消えなかったですが、一度病識を持てると、この病気を治したいと明確な目標ができ、それは私の心の支えになりました。
もう一つ、私を回復へと導いてくれたのは『時間』であり、長い療養の時間が少しずつ考えを変えたり、心を落ち着かせてくれたり、自分自身とじっくり向き合わせてくれたりしました。
もちろん辛い時間でもありましたが、その時間があったからこそ私は生きていて、今こうして情熱を注げる仕事ができています。時間にとても感謝しています。そのこともあり、私の人生そのものである自分のお店の店名を、時薬にしました。

同じ痛みを抱える人たちへ
── 最後に、いま摂食障害と向き合っている方や、その周りの方へ、伝えたいことはありますか。
この病気ほど、自分自身の心や身体と真剣に向き合わざるを得ない病はないと思うほど、自分とは何か、生きるとは何かを突きつけられました。
身体だけではなく、心の回復にも長い時間を要することもあるかもしれません。しかし、この経験をした人は間違いなく、他者の痛みにも寄り添える強さと優しさを持っていると思っています。決してデメリットばかりではなく、むしろ自分にしかない光輝くものをもたらしてくれるようにも思います。そんな希望のある病気であると同時に、必ず回復することを伝えたいです。
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