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「知らないから怖かった」 ー摂食障害の治療を、当事者と専門家の声でたどる時間ー②

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「摂食障害の治療って、どうせ太らされるだけなんでしょ?」
「治療って何をされるのかよく分からなくて、ちょっと怖い…」
「カウンセリングってどこで受けられるの?どんなことするの?」
摂食障害の治療を考えている方の中には、そんな不安を抱いている方も多いのではないでしょうか。
今回は、摂食障害の治療を実際に経験してきた元当事者2名と、摂食障害専門の医師にて、「摂食障害の治療にまつわる不安・疑問」を中心に対談を行いました。
この記事に紹介されている人のプロフィール
まいさん、すんさん、山内常生先生

まいさん(元当事者)
高校生から28歳まで、制限型の拒食症状と時折過食に悩む。うつ病も併発し、外来治療のほか複数回の入院を経験。
家族療法や認知行動療法、インナーチャイルド療法など専門的な治療も取り入れながら、少しずつ自分の気持ちと向き合ってきた。現在はソーシャルワーカーとして働いている。

すんさん(元当事者)
20〜28歳ごろまで、拒食と非嘔吐過食に悩まされる。
摂食障害専門のカウンセラーによる認知行動療法を受けながら、環境やストレス要因の調整を図っていく中で症状が落ち着き寛解。
現在はコンサルタントとして就労中。

山内常生(やまうち・つねお)先生
摂食障害専門医師。数多くの摂食障害患者に対し、外来や入院などの臨床現場で長年支援を行ってきた。
近年は、摂食障害に特化したPHRアプリの開発など、ICTを活用した新しい治療のあり方も研究を行っていたことも。

本記事は元当事者及び専門医の方にご登壇いただいた対談トークセッションイベント”「知らないから怖かった」 ー摂食障害の治療を、当事者と専門家の声でたどる時間ー”の後編になります。
前編を読みたい方はこちらから→ 「知らないから怖かった」 ー摂食障害の治療を、当事者と専門家の声でたどる時間ー①

治療を途中でやめたくなったらどうしたら良い?

すん:次の質問です。「治療を途中でやめたくなったら、どうすればいいか?」。
私自身、やめたいというより、ちょっと頑張りすぎちゃったというか、認知行動療法のマニュアルを参考にして、記録を一生懸命つけて振り返って、やらなきゃって思ってたら、逆に精神的にしんどくなってしまったことがありました。こういう時ってどうしたらいいのか、山内先生に伺いたいです。

山内先生:治療は続けていくことが大事だとは思うけれど、やっぱり皆さん真面目で、「先生に言われたからやらなきゃ」って思い詰めてしまう方が多いんですね。でも、そういう「頑張らなきゃ」という考え方そのものが、摂食障害になることに繋がっている要素なのかもしれません。だからこそ、もう少し肩の力を抜いて、「今はできないけど、そのうち気持ちが向けばまたやれるかも」っていうくらいでもいいと思うんです。
摂食障害の治療って、やっぱり楽なものではないんです。たとえば、骨折の治療の時にも、歩けない時間は辛いですし、治療に辛さはある意味つきものということです。ただ、辛いことを乗り越えれば少し視界が開けるということもあります。
その中でも、どうしてもやめたくなった時には力を緩めるということはあっても良いですが、辛いけど頑張って向き合うことにはそれだけの価値があると信じていけると良いかなと思います。

すん:ありがとうございます。治療って、すぐ良くなるわけじゃないし、かといって絶対に良くならないわけでもない。その中で続けることで見えてくることもあるし、焦らずやっていくことが大事なんだなと感じました。
それと、事前にいただいたご質問に関しても少し絡めさせていただきます。私、ASDの傾向があるんですけど、そういう人って、見通しの立たない治療に対して不安を抱きがちなんですね。「これをインプットしたらこれがアウトプットとして出てくる」ってはっきり見えない世界で、良い意味で緩く構えられるような心構えのようなものはあるんでしょうか。

山内先生:治療の目標って「病気を完全に治すこと」と思われがちですけれど、もっと小さな目標もたくさんあるんです。私たちはよく「スモールステップ」って言葉を使います。たとえば、食事の量をほんの少し増やす、過食の回数を少し減らす。そういう一つ一つの変化も、大切な治療の成果なんです。
ASDの方のように見通しが立たないと不安になる方には、今できていることを一つずつ見つけていくのが大事です。「山の頂上がまだ見えない」と感じても、足元を見れば確実に一歩ずつ進んでいる。そうやって、今できている小さなことを積み重ねることが、治療を長く続けて山を登り切るコツだと思います。

すん:ありがとうございます。私も最近、ようやく自分の食事の記録をまともに見られるようになって、1ヶ月前より少しはましになってきたかな、というのを思い出しながら聞かせていただきました。

「この治療で本当に治るの?」という質問を受けることはある?その時はどう答えている?

すん:では次の質問です。「この治療で本当に治るの?」という質問を山内先生が受けたら、どのように答えられますか?まいさん、もしこれにまつわるご経験があれば、先にお話いただけますか?

まい:そうですね、私もインナーチャイルド療法を受けたとき、胡散臭そうって正直思ったんです。でも、信頼できる先生だったから、受け入れられたんですね。それがなかったら多分嫌だって思っていたかと思うので。

山内先生:「この治療で本当に良くなるんですか?」って聞かれたら、私は「大丈夫、これをやったら必ず元気になりますよ」ということを必ず伝えるようにしています。
ただ、この「治る」というのが、どこまでを指すのかで、話が変わってきます。例えば「特定の食べ物しか食べられない」という人には、「もう1品だけ増やしてみようか」とか。そういうスモールステップを一緒に目指すようにする。一つ一つのステップは小さいけれど必ず前に進めるんだと伝えます。
それから、良くなるタイミングというのがあります。進学や就職、結婚など、生活が大きく変わる時は、治療的にもチャンスでもあるので、そういう時は「今なら絶対良くなる」と勇気づける意味でも言います。逆にタイミングが見つけられそうにないときは、スモールステップを大事にして「ちょっとずつでも、ちゃんと山を登っていますよ」と伝えます。

すん:ありがとうございます。私もすごく勇気づけられましたし、まずは目の前のことを信じてやってみるということ自体が治療にとってプラスに働くんだろうなと感じました。

治療を受ける本人や家族に持っておいて欲しいと思う考え方・スタンスは?

すん:最後の質問に進みたいと思います。
「治療を受ける本人や家族に持っておいてほしい考え方、スタンス」はありますか?
事前にいただいた質問でも「治療って太らせるものでしょ」と思ってしまい治療に踏み出せない、という声がありました。そうした点も踏まえて、お聞かせいただければと思います。

山内先生:治療を始めるうえでまず大切なのは、動機づけです。なぜ治療したいのか、どんな未来を望んでいるのか。つらい治療に向き合うには、目標がはっきりしていることが大切です。
本人が苦しんでいること、失っているもの、将来への不安などを整理して「なぜ治療するのか」をうまく言葉にできれば、治療者や家族などともと目標を共有しやすくなります。
例えば、家族は「早く働いてほしい」と思っていても、本人は「大学院で学びたい」などと違った目標を持っているかもしれない。また、治療者が「体重を増やす」ことを目標にあげても、本人は「みんなと一緒に食事ができるようになりたい」と考えているかもしれない。目標が食い違っていると治療もうまくいきません。
本人が本当に困っていることを中心に「何を目標に何をするのか」の共有に時間をかけることが大事です。話し合いの中で、本人が口では嫌だと言ったことでも、心の中では「本当はやりたい」と思っているかもしれません。本当の気持ちをうまく拾い上げて、みんなでその方向に向かえるようにできると良いです。
家族にはぜひ、本人の声を丁寧に聞いて、その思いに共に取り組むというスタンスでいてもらいたいと思います。

すん:ありがとうございます。やはり「今何に困っているか」「どうなりたいか」にちゃんと本人も周囲も目を向けていくこと、それ自体が支えになるのかなと感じました。

これから治療を考えている当事者さんへメッセージ

すん:最後の項目です。これから治療を考えている当事者さんに向けたメッセージをお願いします。まいさん、お願いします。

まい:はい。私はたまたま摂食障害に詳しい先生やスタッフさんと出会えて、専門的な治療を受けることができました。
山内先生のように「絶対治るよ」と言ってくれる先生がいれば頑張れそうですが、治療が魔法みたいにすぐ効くかというと、全然そんなことはなくて。ただ、今思うと一歩ずつ進んでいたのかなって思います。
確かに治療なのでつらいこともありますが、治療って人と人との繋がりそのもので、「味方になってくれる人が増える」ってことだと思うんです。だから、あまり気張らずにいけるといいのかなって思います。

すん:とても素敵なお話をありがとうございます。では、私からも少しだけ。
私自身も今は「寛解している」と言える状態かと思いますが、治療を通して摂食障害が良くなっただけでなく、自分自身について気づけたことがたくさんありました。
治療はたしかにつらいこともありますが、自分の人生にとっての糧になることもある。だからこそ「信じてやってみる」、そんな気持ちで取り組んでみてほしいなと思います。
それでは最後に、山内先生からもお願いします。

山内先生:はい。治療というと「誰かに何かしてもらう」受け身のものと思われるかもしれません。でも本当は「自分が困っていて、それを良くするために自分が動く」という能動的な行為が大事なんです。
治療の中で主治医の言葉に励まされたり、家族の対応に救われたりすることはあります。でもそれも含めて、自分自身が回復のために自分の意思で選び、進んでいることなんです。
だから、あまり気負わずに自らの意志で「まずやってみる」こと、そして「しんどいけど、みんなが応援してくれているからやってみよう」と思うことを大切にしてもらいながら、ぜひ治療にすすんで取り組んでもらえたらと思います。

すん:ありがとうございます。まいさんの言葉にも先生の言葉にもあったように、治療者はやはり味方であって、信じて一歩踏み出すことが大事なんだと改めて感じました。

編集後記

通院・入院、インナーチャイルド療法や家族療法といった多くの治療を経験してきたまいさんのお言葉に滲み出る、「治療者や支えてくれる周辺者を信頼する」大切さ。すんさんがカウンセラーの提示する治療にまっすぐ向き合ってきたからこその気付きをまとめた「自分の人生にとっての糧になった」という言葉。治療につらさはつきものだと仰る山内先生がたびたび強調される、「スモールステップ」そして周りで支えてくれる方々の存在。「摂食障害の治療」は、決して楽な道のりではないけれど、一人で孤独に頑張る必要もないし、遠くて見えないどこか先を目指して闇雲にもがく必要もない。治療者はもちろん、家族や友人が一緒に走ってくれる。「治療を受けたいけれど不安」「治療は”太らされる”などつらいものなんじゃないか」そんなことを感じられている方が、味方になってくれる方々の存在を背中に感じながら、少しでも明るい未来を想像して一歩踏み出せると良いなと、改めて感じています。

治療が孤独でつらい、不安だと感じられている方は、是非ピアサポーターとの1on1面談もご活用ください!
摂食障害ピアサポート Ally Me