本記事は当事者の方にご登壇いただいた対談トークセッションイベント”摂食障害と社会資源のリアルな話~「自立訓練」ってどんな感じ?~”の後編になります。
前編を読みたい方はこちらから→摂食障害と社会資源のリアルな話~「自立訓練」ってどんな感じ?~①
症状と向き合いながら、自分の生き方を見つける
山本:正直、通所を始めてからどんどん悪化していったんです。もともと過度に細い身体を維持できてたのは、ずっと家に引きこもって寝たきりだったからで…でも通所するには、ある程度体力が必要で、歩いて行かなきゃいけないし、起きなきゃいけない。そのためには少しでも食べなきゃって思うけど、食事量を増やすのはストレスで、かえって吐く頻度が増えてしまいました。
稲岡:実はその話は今回初めて知ったんですよね。でも通っているのに症状が悪化するという状況で、ご両親も心配されたと思いますが、それでも通い続けられたのはなぜなんでしょう?
山本:その通りで、両親は通所するたびに私の状態が悪くなっているように見えたみたいで、すごく心配していました。でも自分としては、家で寝たきりで、人の手を借りないと生きていけないような状態よりは、少しでも外に出て活動して、社会に触れていた方がいいんじゃないかって思ってたんです。
そう思うようになったきっかけが、稲岡さんの存在でした。自分と同じ病気の人と深く話すことって今までなかったので、最初はすごく新鮮だったし、いろんな気づきがありました。
私はずっと、「完治すること」を目標にしていて、病気が治ってからじゃないと次の行動には移れない、って思い込んでました。でも、稲岡さんは病気を受け入れて、病気と一緒に生きていくっていう考え方をしていて、しかもそれで実際に働いて、キラキラと人に希望を与えてる姿を見て、本当に衝撃的でした。「こういう生き方もあるんだ、自分もこういう風に生きられたらいいな」って思ったのが、ちゃんと通ってみようと思えたきっかけです。心配しながらも、両親は応援してくれました。
稲岡:キラキラしていたわけじゃないんですよ!!(笑) 当時は仕事をしながらも毎日のように過食嘔吐があったし、3ヶ月に1回くらいの頻度でうつになっていました。利用者の方にもそういう時は「ごめんなさい、うつです」って伝えるんですけど…そうすると、逆に「大丈夫だよ」と励ましてくれることもあって。私も以前は「完治しないと夢を持っちゃいけない」「楽しいことをしちゃいけない」と思っていたんです。それを打ち破ってくれたのが、身体障害と知的障害を持ちながらも夢を持って友達と楽しく生きている利用者さんとの出会いでした。その人は、自分の障害を障害にしていなかったんですよね。それを見て「私は何をやっているんだろう」と思ったんです。摂食障害を自分の全部にするのではなく、「ちょっと手が不自由です」くらいの感覚で付き合っていこうと考えるようになってから症状も落ち着き始めました。
ななさんは元々下剤も沢山使われてたと思うんですけど、下剤の使用状況はどう変わりましたか?
山本:中学生の頃からずっと飲み続けていて、もう耐性がついていたので、当時は1日50錠くらい飲んでいました。それくらい依存していたので、やめるのは正直すごく難しかったんですけど、半分くらいまでは減らせました。ベーシックアカデミーの職員さんが、「自分の腸が動かなくなったらどうなるか」って話してくれて、それを聞いた時に、初めて自分の体のリスクをちゃんと考えるようになったんです。それまでは、とにかく痩せることだけが目的で、好き放題やってたんですけど、その時から「このままじゃまずいかもしれない」って怖くなって、少しずつ減らし始めました。今もまだ完全にはやめられてなくて、消化器内科に通いながら治療を続けているところです。
稲岡:50錠と聞いた時は職員全員がびっくりして、本当に心配しました。職員がリアルな話をしてくれたのが効いたようで、よかったです。今は減らしながら回復に向かっているんですね。
2年間通って卒業された後、私からアルバイトのお話をさせていただきましたが、その時はどう思われましたか?
利用者から支援者へ ― 新たな人生の一歩
山本:素直に、すごく嬉しかったです。卒業の頃には福祉に対する偏見もなくなっていて、感謝の気持ちでいっぱいだったので、自分の何かを見て、ちゃんと評価してもらえたのかなと思って、本当に嬉しかったです。
稲岡:ななさんは来所した時から存在感がありました。もちろん容姿端麗ってこともあるんですけど、何より中身の部分がすごく魅力的なんです。まず聞き上手であること。あと聡明さ、病気に対して真摯に向き合う姿勢、何かを学んで一歩一歩進んでいく強さを感じていました。最初は週1回3時間からスタートして、今は週5日フルタイムで働いていますが、当時フルタイムで働けるようになると思っていましたか?
山本:全く思っていませんでした。自分に甘いところがあるし、早起きとか、毎日働くのは正直しんどいなと思っていたので、フルタイムで働くなんて想像できてなかったです。卒業した時も、「とりあえず週3回くらい、短時間だけ働けたらいいな」くらいの気持ちでした。
稲岡:それがどうやってフルタイムで働けるようになったんですか?
山本:これは本当に、ベーシックアカデミーのおかげだと思っています。最初は週1回、3時間だけ働くところから始めて、そこから少しずつ時間を増やしていきました。体調に合わせてシフトも柔軟に調整してもらえて、フルタイムで働けるようになるまでには2年くらいかかりました。こんなに柔軟に対応してくれる会社って、他にはなかなかないと思います。
稲岡:最近はそういう柔軟な会社も増えてきていると思いますが、そう言っていただけて嬉しいです。フルタイムで働けるようになって、満足感や達成感は感じていますか?
山本:はい、めげずに頑張ってみて良かったなと思います。
稲岡:最初は事務のお仕事をお願いしていましたが、今は支援員としても活躍されていますね。仕事のやりがいは感じていますか?
山本:最初のうちは、「働けてる」っていうこと自体にやりがいを感じていました。でも、フルタイムで働いて利用者さんと関わる時間が長くなるにつれて、自分が利用者だった頃の気持ちと重なる部分があったり、「同じようなことを感じてるのかも」って思う人がいたりして、自分の経験とか考えを活かして、何かできたらいいなって思うようになりました。まだまだ未熟で勉強中ですが、それでもやっぱりやりがいはあります。
稲岡:ピアサポーターとして利用者さんに寄り添える部分は大きいと思います。社内研修でも熱心に意見を出してくださっていますし、精神保健福祉士などの資格も取りたいという話を聞いた時はとても感動しました!
最後の質問で、この企画のテーマにもなると思いますが、障害や障害福祉サービスに対する偏見は最終的に取れましたか?
偏見を超えて ― 「普通の場所」としての福祉
山本:はい。もともと福祉サービスがどんなものかも知らないまま、なんとなく福祉っていうものを毛嫌いしていたんです。「福祉=介護」というイメージが強くて、重い障害があって一人では何もできない人たちが利用するもの、生活するための場所だと思っていたんです。だから、自分が利用を勧められた時も、「そんな場所、自分が行くところじゃない」って、すごく抵抗がありました。
でも、実際に福祉の世界と関わってみたら、「障害者」といいつつも、生き方は普通の人と変わらなかった。高学歴だったり、芸術の才能があったり、いろんな人が利用していて。もちろん、当初のイメージに近い人もいましたけど、そうじゃない人もたくさんいて、いい意味で「ただの普通の場所」という感じで驚きました。生活の中で悲しいことが重なってうつ状態になってしまった人とか、過去のトラウマが影響して生活が難しくなった人とか、自分の意思とは関係ないところで感情に振り回されて動けなくなってしまった人とか…本当にいろんな背景を持つ人が利用していました。今では、偏見は全くなくなりました。
きっと、まだまだ偏見を持ってる人は多いと思います。でも、心がしんどかったり、不調が続いていたり、ちょっと人生を休みたいなと思っている人にとっては、福祉を頼るっていう選択肢があってもいいと思うし、そういう場所があるってことをもっと知ってもらえたらいいなと思います。
稲岡:「いい意味でただの普通の場所」というのは本当にその通りですね。今日はななさんの回復の軌跡を振り返らせていただいて、今まで聞けなかった当時の心境や状態、支援についての率直な感想を知ることができて貴重でした。
改めて回復につながるものは何かと考えると、人との交流の中で得られる経験知や体験知が大きいのだと思います。「みんな普通の人間なんだ」とか「病気の部分も健康な部分も持ちながら、みんな生きている」とか「人を頼ると案外問題は解決する」といった気づきを得られる場所として、これからもベーシックアカデミーをつくっていきたいと思います。
私自身も3ヶ月前に過食嘔吐があると言いましたが、症状が落ち着いても人生で悩んだり落ち込んだりすることは今でもあります。でも、そういう弱さは誰にでもあるもので、そんな中でもお互いに助け合いながら前進していく姿は、心の元気をなくしてしまっている人にとっては、希望や勇気になるのかもしれません。
なので、皆さんも強がり過ぎず、時には弱さも見せながら、必要な時は頼れる人に頼ることで、当事者の方のロールモデルになっていただければと思います。また、当事者の方を特別扱いしすぎずに、互いに支え合いながら生きていける温かいコミュニティを家庭や職場で作っていただけるきっかけになれば嬉しいです。
<編集後記>
対談は、終始和やかな雰囲気で、時折笑い合いながら進みました。その空気感からも、支援者と利用者、という枠組みを超えて、人と人としての信頼関係が出来ているんだろうなぁ、と感じさせられました。事後アンケートでも、下記のような声が沢山寄せられました!
「完治してから夢を持つのではなく、症状とともに人生を充実させていく」その言葉に、勇気をもらいました。私自身、うつ病や不安障害、摂食障害があります。支援職を目指して学んでいますが、自信が持てない時もあって…。今日のお話を聞いて、自分のペースで夢を追いかけていいと思えました。」
「自立訓練は特別なことじゃなく、誰もが使っていい支援なんだ」と感じられました。社会資源に対する印象が大きく変わりました。」
「登壇された稲岡さんが、「当事者性と支援者性の葛藤」よりも、「回復のかたちは本当に人それぞれ」と語っていたことが印象に残っています。支援の現場に必要なのは、“多様な道のり”へのまなざしだと感じました。」
稲岡さん、山本さん、貴重なお話をいただき、ありがとうございました✨
稲岡さんが所属されるBasic academyについて知りたい方は↓
https://basic-academy.jp/