OBOG訪問室 さちさん
OB・OG訪問室

高校時代から続いた摂食障害「痩せることが全て」という考えから抜け出すまで

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高校時代に見た目への意識が高まり、ダイエットを始めたさちさん。「痩せたね」という言葉に喜びを感じるようになり、急激な体重減少を経験しました。繰り返す食事制限と過食に悩んだ時期を経て、運動をきっかけに食との向き合い方を見直し、新たな方法で自分の価値を見出していった彼女の体験をお話ししていただきます。
この記事に紹介されている人のプロフィール
さち・20代女性

高校1年生でダイエットを始めたことをきっかけに制限型拒食となり、その後過食へと症状が移行。大学時代の一人暮らし中には特に症状に悩まされるも、社会人になってからピラティスを始めたことで回復し、徐々に食事を楽しめるようになりました。現在はIT企業で働かれています。

「痩せたね」と言われるのが嬉しかった高校時代

—— 始めに、これまでの経緯について教えてください。

小さい頃は食べることも運動することも好きで、健康的な体型の子どもでした。でも高校1年生の時、ネットで見つけたグルテンフリーダイエットにハマって、パンやお菓子を禁止するようになりました。

だんだん体重が減っていくことが毎日の楽しみになって、もっと体重を減らせるようにとお弁当箱を小さくしたり、毎日部活後にランニングをしたり、YouTubeでの宅トレをしたりするようになりました。

—— 高校時代にダイエットを始めるきっかけとなった、具体的な出来事はありましたか?

ラグビー部のマネージャーをしていたことが大きかったと思います。同期のマネージャーがもう1人いて、他は全員男子部員という環境でした。男子部員たちが「あの子が可愛い」とか「あの子のスタイルがいいよね」という会話をしているのが聞こえてきて、「こうやって見られて評価されているんだ」という意識を持つようになりました。異性の目を気にする立ち位置にいたことが影響していたんじゃないかと思います。

—— かなりのスピードで痩せていかれたようですが、当時の気持ちについて覚えていることがあれば教えてください。

「痩せたね」と言われることに喜びを感じていたんです。それが正解だと思っていて、「このまま頑張ろう」と考えていました。辞めたいという気持ちがそもそもなかったんです。ダイエット開始から数か月で理想の体重まで減って、その後はその体重を維持していました。

拒食から過食への変化

——その後、過食に転じたタイミングがあったそうですね

ダイエット開始から8か月くらい経った時、夕食に出された炊き込みご飯をおかわりしたところ、満腹の感覚が分からなくなって苦しくなるまで食べてしまったんです。「明日の食事を減らせば問題ない」と思っていたんですが、翌日も翌々日も食事を我慢できなくなって、食欲を抑えることができなくなっていきました。毎日のランニングもやめてしまって、体重も元に戻ってしまったんです。

——その時はどう感じましたか?

1つがうまくいかなくなったら、「もう何をやっても意味がない」という感情になってしまいました。

それまでは食事制限も運動も、すべて自分で決めたルール通りに完璧にこなして、それで自分を認めていたんです。でも食欲を抑えられなくなった時、「もう運動しても取り返せない」という気持ちになって、ちょっと自暴自棄になってしまったと思います。

思い返すと、親が「褒めて伸ばす」タイプで、「○○ちゃんは何でもできるね」「すごいね」とよく言ってくれていました。その言葉が嬉しかった反面、「できない自分を見せたくない」という気持ちも強くなっていたんだと思います。いつの間にか人前では“ちゃんとできる自分”でいなきゃというプライドやプレッシャーを抱えるようになっていました。

受験のストレスが過食の引き金に

高校2年生になってから、健康診断での体重にショックを受けて再びダイエットを決意したんですが、食事制限と過食の繰り返しで、体重が上下していました。何をしていても食べ物のことを考えてしまって、食への執着が強くなっていったんです。

「1年前は痩せていたのに、どうしてダイエットが続かないのか」と、食事制限できない自分の意志の弱さに落ち込んで、自己嫌悪が続きました。ダイエットして綺麗になりたいという思いはずっと持っていたんですが、友達の前では「ダイエット中」と公言して食事の量を減らしていても、家に帰ると過食をしてしまうようになっていました。

—— 受験とダイエットの両立で困ったことはありましたか?

高校3年生になると受験が始まって一層大変でした。「痩せたい」という気持ちで頭がいっぱいなのに、受験のストレスで全然食事制限ができなくて。志望校が高めのところを目指していたので、模試の結果が悪いとストレスでお菓子をたくさん食べてしまっていました。でもダイエットしなければという思いもずっとあって。

食べてしまう自分に自己嫌悪して、ストレスにストレスを重ねる悪循環でした。ストレスのはけ口が食べることしかなかったので、受験のストレスは過食の大きな要因になっていたと思います。

大学での一人暮らしが招いた悪循環

—— 大学時代はどのように過ごされていましたか?

一番過食がひどかったのは大学1年生の時でした。上京して一人になったら自分で食生活をコントロールできるので、ヘルシーなものを食べて痩せられると思っていたんです。「親元を離れてヘルシーな食生活を送って痩せるんだ!」と意気込んでいたんですが、現実は食欲を抑えられず過食を続ける日々でした。

友達の前では少量をゆっくり食べていたので小食だと思われていたんですが、帰り道にコンビニスイーツを買い込んで、一人暮らしの家で過食をするような生活でした。買ったものを翌日まで取っておくことができず、満腹なのに泣きながら口に詰めたこともありました。

吐くことも試してみましたが、結局できませんでした。その後も何度か試しましたが、体質的に吐けないタイプでした。

家族に理解されなかった辛さ

—— 当時、ご家族には相談されましたか?

実は症状がひどい時には話せませんでした。精神的な病気というレッテルを貼られるのが怖くて、親に言ったら病院に行くよう勧められるかもしれないと思ったんです。でも当時は病院に行きたくなかったし、病名をつけられることにも抵抗がありました。

家族からの声かけも、ダイエットを頑張っている時は「ダイエット頑張ってるね!」と応援してくれて、過食で太った時は「それはそれでいいんじゃない?」という感じで、特に何も言われませんでした。

—— その後、ご家族に摂食障害だったと打ち明けたことはありますか?

大学4年生くらいの時、一人暮らしの時に辛い思いをしていたことや、食べることで悩んでいた時期があったことを母に初めて話しました。

「気づかなくてごめんね」みたいな寄り添う言葉をもらいたかったんですが、「ただ食べるのが好きなだけでしょう」「気にしすぎだよ」と言われてしまいました。これは当事者じゃないとわからない感情なんだなと思いました。話すことで自分が傷ついてしまいたくないから、他の人にはもう話さないようにしようと思いました。

就活期の症状再発

大学2年生の時は、バイトや友達と遊ぶ時間が増えて、食べることを考えない時間が増えたことで体重も落ち着きました。でも、食への執着は強いままで、友人との食事や飲み会でも目の前の食べ物のカロリーを考えてしまったり、大食いで痩せ体質の友人に嫉妬したりしていました。

3年生になって就職活動と研究室が始まると、日常的なストレス度合いが強くなって、ストレスを感じるたびに何かを口にしないと耐えられなくなり、過食が再開しました。お菓子を家に置くと全部食べてしまうので、ストレスを感じるたびにその都度コンビニに買いに行って食べていました。食べている時は幸せだけど、食べ終わると罪悪感で自己嫌悪になるループを繰り返していました。

当時、日常のストレスが過食の原因だということには気づいていなかったと思います。食べ物に対する考え方が「お腹が空いたから食べる」ではなく、「好きだから食べる」「そこにあるから食べる」という感じだったので、ちょっとでもストレスがあると自然と手が伸びてしまっていました。

—— 人前では食事を控えめにしていたそうですが、それも辛さの一因だったのでしょうか?

そうですね。友達の前では「この食事だけで今日は終わり」と決めて少なめに食べるんですが、帰り道でどうしても何か買ってしまって。自分で決めたルールを守れない自分にも嫌気がさしていました。

大学4年生は就活が終わって授業もほとんどなく、比較的穏やかな生活だったため過食は落ち着きました。ただ、友達と外食すると常にカロリーのことを考えてしまって、数日前からカロリー調整したり、当日夜ごはんに誘われると断ったりしていました。

—— 摂食障害かもしれないと考えたきっかけなどはありますか?

大学1年生の時、吐き方を調べた記憶があります。その時にネットで摂食障害という言葉が出てきて、初めて自分が摂食障害なのかもしれないと気がつきました。

自分の症状がひどくなった時に「過食」で検索すると、写真付きの食べ物の投稿がたくさん出てくるんです。その写真を見ては「同じような人がたくさんいるんだな。私だけじゃないなら、まあいいか」という感じで心を落ち着けていました。

その時は、自分と似たような投稿を見ることで「まだ大丈夫かもしれない」という気持ちになったり、いつか良くなるかもしれないという希望を持ったりしていました。人それぞれ症状の程度や現れ方は違うんだなということも、その時に知りました。

社会人になってからの変化

——社会人になってからは症状とどのように向き合われていたのでしょうか。

社会人になったら、今度は会社の飲み会が大変でした。歓迎会とかで、から揚げやポテトみたいな、私がどうしても抵抗を感じる食べ物ばかり出てくるんです。食べる量を自分なりに調整したり、お酒も控えたりして、なんとか罪悪感を持たないように気をつけていました。

そんな時に流行りに乗ってピラティスを始めました。最初は体のラインが見える服を着なきゃいけないイメージがあって、正直すごく怖かったんです。でも思い切って体験に行ってみたら、参加者の皆さんも色々な体型の方がいて、「あ、私でも大丈夫そう」と思えて続けることができました。

その後、ジムやランニングなど、いろいろな運動を始めるようになって、体型が変化したことで自分に自信がついたんです。一般的な一人前の食事をとっても罪悪感を持たなくなってきました。高カロリーなものを食べても体重が大幅に変動することがなくなってきて、パンや麺類を食べることへの抵抗もかなり減りました。

時々お菓子を満腹まで食べてしまうことはありますが、過食に走ることはなく、他の食事で調整できています。調整できているので罪悪感もほとんどありません。

—— 食べることへの罪悪感がなくなっていく過程で、気持ちに変化はありましたか?

運動を始めてからもしばらくはちょこちょこ過食してしまうことがあったんですが、運動しているからか食べ過ぎてもあまり体重が増えていないということに気づいて、その時から「食べてもいいんだ」と自分を許せるようになりました。「運動してるし、何食べてもいいよね」というマインドを持てるようになったんです。

「食べたものがそのまますぐ1日2日で体の脂肪として蓄えられるわけじゃないから、このくらい食べてもいいんだよ」と自分に言い聞かせることを癖づけました。食べてしまっても今日くらい仕方ないという気持ちでその日は割り切って、それ以降長引かせない。自分でスイッチの切り替えができるようになった感じがあります。

新たに見つけた自分の価値

——現在は資格取得などもされているとお聞きしました。

昔は痩せることだけが自分の価値を高められる手段だと思っていたんですが、中々うまく痩せられなくて。痩せることでは自分の魅力はそんなに高められないというか、他の武器が欲しいという気持ちが芽生え始めて、そこからいろいろな他のことにも挑戦してみようという思いを持つようになりました。

いろいろ挑戦し始めてからの気づきなんですが、資格などを取ってみるものの、自分の穴というか、自信のなさはそんなに埋められていないような気もしています。ただ、過去と今の自分を比較すると、知識やスキルは確実に増えているので、昔の自分と今を比べて、自分を認めてあげられるようにはなりました。でも他人と自分を比べてしまうと、「まだまだだなあ」という感じで、ちょっと自信をなくしてしまったりもします。

—— 自分のことを認めてあげるというのも、努力してできるようになったことなのでしょうか?

周りの仲のいい友達がいろいろ褒めてくれるんです。「この資格取ったんだよね」と伝えたら、「そんなこともやっててすごいね」と言ってくれて、前向きな気持ちを持てるようになったと思います。

同じ痛みを抱える人たちへ

—— 今日お話しいただいて、改めて感じていることがあれば教えてください

色々話してみて、やっぱり当時はすごく苦しかったなという気持ちが一番あります。食べることって本来は楽しいことで、ご飯も美味しくて楽しくて、生活に彩りを与えるもののはずなのに、それを素直に楽しめていなかった期間はすごく苦しかったなと改めて思い出しました。

でも私は、それがきっかけで自分を高めたいと思えるようになったので、資格の勉強だったり、運動を始めたり、いろいろ新しいことを始める原動力になっているのかなという部分もあります。摂食障害になった自分も悪くないかなと今になっては思います。

—— 最後に、同じような悩みを抱えている方に伝えたいことがあれば教えてください

摂食障害の事例や直し方をいろいろ調べて、試したこともあるんですが、それでは自分は何もうまくいかなくて。自分には他の人の事例が当てはまらなくて、結構悩んでいた時期もありました。

でも、自分はたまたま運動を始めてからすごく症状が良くなったという経緯があって。多分今悩んでいる方も原因は様々で、その分回復までの道のりも人それぞれ違うと思うんです。他の人みたいにうまくいかなくても、落ち込まないでほしい。誰かの方法が今当てはまらなかっただけで、いつかどこかのタイミングで必ず良くなると思うので、あまり自分を責めすぎないでほしいなと思います。

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