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OB・OG訪問室

産むこと、生きることを選んだわたしたちへ。~摂食障害と妊娠・出産・育児~ ②

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摂食障害を患いながら妊娠・出産・育児を経験した当事者の皆さんに、その体験や想いを語っていただきました。参加者は、長年摂食障害と向き合ってきた女性2名と、摂食障害の妻を支える夫婦です。それぞれ異なる背景を持ちながらも、共通する悩みや気づきが浮かび上がる貴重な対談となりました。
この記事に紹介されている人のプロフィール
はなさん・あやえさん・ふじもと夫婦

①はなさん(40代後半):30年以上摂食障害と向き合い、3年前に寛解。大学3年生と高校2年生の2人の子どもを育てながら、自分自身も成長してきた。最初は拒食から始まり、過食、下剤乱用、過食嘔吐と症状が変化していった。

②あやえさん(38歳):20歳から16年間摂食障害(主に過食嘔吐)に苦しみ、2年前に克服。シングルマザー期間を経て再婚し、現在は4人の子どもを育てながら会社員として働く。摂食障害克服後は、子育てママ向けのサポート活動も行っている。

③ふじもとあつしさん・みきさん夫妻:みきさん(24歳)は中学2年生から摂食障害を患い、現在も闘病中。生後2ヶ月弱の赤ちゃんと2歳の子どもを育てている。あつしさんはパートナーの立場から、また摂食障害をテーマにしたドキュメンタリー映画制作者としても参加。

本記事は当事者の方にご登壇いただいた対談トークセッションイベント”産むこと、生きることを選んだわたしたちへ。~摂食障害と妊娠・出産・育児~”の後編になります。
前編を読みたい方はこちらから→産むこと、生きることを選んだわたしたちへ。~摂食障害と妊娠・出産・育児~ ①

パートナーとの関係性の違い

司会:ふじもとさんのお話を聞いていると、主治医との相談から行政との関係作りまで、本当に一緒に出産・育児の準備をしてきたんだなと感じます。…と同時に、司会としては「良きパートナー」に巡り合える人ばかりじゃない中で羨ましいな、とも正直感じてしまうんですが…💦
はなさんの場合、パートナーにはあまり頼らずに育児をされてきたんですよね?

はな:私は、摂食障害について病院に全然行っていないんです。高校生の時に病院に行ったのと、大学生の時に大学内の先生に話したくらいしか、接点がありませんでした。一人目を出産した後には摂食障害の症状をメインにして病院に通っていたんですけど、その時は私が自殺未遂をしてしまったので、辞めさせられてしまったり…。
なので一人目の妊娠・出産と二人目の妊娠・出産の際は、どちらも摂食障害で病院にかかるということはしていませんでした。
パートナーについては、私に摂食障害があるということは知ってはいたんです。一人目の時は、症状があった時に助けを求めて家に帰ってきてくれた経験が一回だけあったんですけれど…それ以外は症状のことについて一切相談していないという状況でした。
だからすごく皆さん、協力してもらえるパートナーがいるってすごいなと思って…(笑)
でも、本当にいてもらえた方がいいと思うし、症状があっても、あなたはあなたでいいんだよということを認めてもらって、子育てに一緒に参加してもらえるパートナーがいると、どれだけ心強いだろうなってすごく思っていました。今でも、それは思っています。症状があっても、私なんです。それをお互い認め合えたらいいんじゃないかな、と思っていました。

司会:はなさんの場合、症状に対しての理解を含め、パートナーからのサポート体制があまりなかったという状態で育児をされて、もうすぐ子育てもひと段落になるかと思います。何を支えにして育て上げられたのか、思い返すといかがでしょうか。

はな:完璧主義だからですかね、自分が。やり通してしまわないと、子育てにしても摂食障害にしても。産んだ以上はちゃんと育ててあげないといけないという義務感というか…子どものためにという部分よりも、自分がちゃんと育ててあげなければいけないという義務感が強かったのかなと思います。それが支えと言えば支えだったかなと。
例えば、一人目の産後に、保健師さんが家に入って話を聞くというサポートがあったんです。それをね、私は断っちゃったんですよ(笑) 母親としてちゃんとやれていますか?という質問があって…いや、やれてますよ!って。自分の母も、生まれた直後は手伝いに来てくれていたんですけど、育児の仕方がああだこうだと言われるのが、すごく負担で…なので、もうちゃんとやっているから帰って!って言って帰ってもらったり。
だから、自分が育児を完遂する上で支えになった部分って何だろう、って思ったら「ちゃんとやりきらないといけない」という思いなのかなって。あとは、やっぱり子どもは、それでも私を母親として頼ってくれているってこと。私がいないと、この子たちは今生きていけない状態なんだな、と思っていたので、そういうところですかね。

育児の中での摂食障害の症状

司会:ありがとうございます。あやえさんにも伺いたいんですが、実際にご出産された後、摂食障害の症状とともに子どもを育てる上ですごく大変だったことや、ご自身の支えになっていたことがあれば、教えていただけますか?

あやえ:やっぱり過食嘔吐をしながらの育児というのが大変というのに尽きるなと思っています。24時間ずっと衝動みたいなものにビクビクしながら生きていましたし、夜中は過食嘔吐そのものというより、泣いている子どもを放ってトイレにこもっていることに、やっぱり自責の念が強くて…もう本当に大変でした。
二人の子どもを一人で育てていた時は、夜中に子どもが起きてきちゃうんです。私がやっと仕事が終わって、子どもたちを寝かしつけて、さあ過食しよう、って思った時に、起きてきちゃう。今だったら、思い出すと本当に涙出ちゃうんですけど…息子に対してもキレちゃってました。早く寝ろよ!って思っちゃって。
本当に一人で育てていたから、その時は誰にも頼れなくて、どうすることもできずブチ切れちゃって…全部が終わった後に、子どもたちの寝顔を見ながら、本当に何でこんなことしちゃってるんだろうって涙が止まらなくなっちゃって。それでもやっぱり次の日も食べちゃうみたいな。すみません、思い出しちゃうと本当に今でも涙が出て来てしまって…。
こんな風に振り返ってお話するのも久しぶりだったんですけど、本当に今当事者の方で、育児されている方も、やっぱり苦しいだろうなって、思い出して感じます。
やっぱり、本当に自分を責めちゃうのが辛かったですね。本当に特別なことはいらないから、この子たちと一緒のご飯を食べたいなって思うんです。それでも過食嘔吐は辞められない。そういう生活、気持ちが大変でした。

司会:過食嘔吐って、衝動的でコントロールできないからこそ、本人が悪いわけではなくても自分を責めてしまいますよね。今はSNSとかでも、良い母親プレッシャーってすごくある中で、人より自分を責めるトリガーが多い状態なのかなと思います。
あやえさんの場合、当たり前に一緒にご飯が楽しめないといった日常のしんどさが、本気で治そうと思うきっかけになったということでした。「もういい加減やめよう」みたいな瞬間って、今までの人生の中でも沢山あったと思うんですが、育児をする中で改めて強く思ったのは、どういう気持ちの変遷があったんでしょうか。

あやえ:私の場合、一回どん底まで行ったというか、一回死んだ人生を生きてきたんです。実の母の死の直後に夫と離婚して。本当に孤独になって。そういうどん底の中で、本当に自殺を考えた時期があって。摂食障害も治らないし。本当にもう死のうと思ってたんです。
それで、自分の心と体がもう崩壊しかけて、その時に本当にたまたま巡り合った今のパートナーがいて、命を救われたんです。それで結婚して、子どもを授かることができた。よし、もう私は大丈夫だ、と思ったのに、それでもやっぱり治らないっていう…もう、なんでなんでなんで!?のパニックですよね。
実は、3人目の子どもが2ヶ月の時に、コロナになったんです。その時にぶわーって過食嘔吐が押し寄せて、またガリガリになっちゃって…もうないだろうって思ったのに、やっぱりぶり返したっていうのを経験して、そこで決意ができました。自分と向き合う決意をして、克服サポーターのもとに入って、いろんなステップを教えてもらって行くうちに、克服まで行ったという形でした。私の場合は、ある種の底付き体験があって、上を向けたという感じだったと思います。

司会:ふじもとさんも、摂食障害の症状と共に育児をする上で大変だったことを教えてください。

ふじもとみき:先ほどのあやえさんの、仕事から帰ってきてやっと寝かしつけて、ストレスとか疲れも溜まってバーッと過食嘔吐したいって時に、子どもが泣いて起きて、もうなんで起きるの!?みたいな、それで怒ってしまってからの自責、すごくわかるなと思って聞いていました。
第二子妊娠中に、上の子が1歳ちょっとの時とかには、自分の体がしんどくても外で遊ばせて、昼寝させるようにしてました。でも寝かしつけに時間がかかることもあって…やっと寝たと思ったら、やっぱり過食しちゃうんですよ。でも過食してる途中に、やっぱり泣いて起きられてしまって、私もブチ切れてしまうみたいなことがありました。もし過食嘔吐がなければ、もう少し自分も一緒に寝たりして楽になるし、ブチ切れることもないのに…と思ってましたね。
今の私も、摂食障害の症状は続いています。やっぱり、過食嘔吐がないと、今しんどいというのも確かなんです。過食嘔吐がすごい育児の邪魔をしてきて、しんどい。でも、育児をこなすためには、過食嘔吐がないとしんどい。どっちもあるから、難しいなってすごい思いますね。

司会:確かに、過食嘔吐の症状で今の自分の心を守ってるってところもありますよね。はなさんは、育児をする上で摂食障害の症状が影響して大変だったこと、ありましたか?

はな:摂食障害の症状はもちろん、完璧主義が育児に影響して大変でした。妊娠中も自分の体重管理とか、完璧主義ですごい大変で…。制限を課してしまって、太れないんですよね。
症状真っただ中の時は、子どもの離乳食も、何ヶ月の時は何グラム食べさせて、という教科書的な手順に沿って、「今日はこの食事で何グラム食べさせなきゃいけない」って計ったり。子どもも自分も全部カロリー計算をしていると、それで一日中費やしちゃうんです。それだけやっても、下の子は食べない子だったので、食べてくれないことにまたパニックを起こしてしまったりとか…そういうストレスが日中あると、夜中過食したくなってくるし。そういう完璧主義との戦いが、すごく大変でした。

パートナーや周囲に求めること

司会:今回お話を聞いてきて、パートナーや行政、産婦人科、主治医…などなど、周りの人がどうやってサポートするか・出来るか、というのがとても大事な要素だと改めて感じました。周囲にどういう対応・理解を求めていたのか、伺いたいと思います。あやえさん、いかがでしょうか?

あやえ:やっぱり、そのままで大丈夫だよ、いてもいいんだよ過食嘔吐してもいいよ、摂食障害でも大丈夫だからね、っていうふうに、自分の全部を受け止めてくれるっていう安心感は必要だと思います。可愛いから、綺麗だから好きとか、優秀だから好き、じゃなくて、そのままで良いよって言うのが、一番の土台としてある。それは間違いないなと思います。
以前、私が過食嘔吐しちゃって、次の日に夫が子どもや後片付けの対応をしてくれてたことがあったんです。それで、その時に私、夫にごめんねって言ったんですよ。そしたら夫が「いや、ごめんねはいいよ。ありがとうじゃない?」って言ってきて。普通に言われて、その時に私は、自分の中に「生きていてごめんなさい」っていう気持ちがデフォルトになってることに気付いたんです。「あなたは病気なんでしょ?だったら、こっちがその分サポートするのって当たり前だよ」って言われた時に、「ああ、病気と切り離した私自身を愛してくれてるんだなぁ」っていうのを感じたんですよね。

司会:摂食障害もひっくるめて、自分という存在をそのまま受け入れているという態度、対応ということですね。はなさん、いかがでしょうか。

はな:私は、産婦人科の先生って、2カ所経験してるんです。1か所目のところは、もうすごい混んでいて行けなくなってしまったんですけど、2人目の先生はたまたま地域の母親教室で話をされていて。その時に、「妊娠してるんですけど、食べれないんです。これで子どもを産んでいいんですかね」っていう質問しに行ったら、「いいんじゃないですか?」って。
「子どもは、お母さんの中で勝手に育ってくれるから、そのままでいいよ。食べれなかったら食べれなかったでもいいから」って言ってくれて、そんな風に受け止めてくれる先生がいるんだ!と思って選んだんです。だから、そういう食べられないっていう症状があっても、受け止めてくれるということが、すごく大事だなって思いました。
パートナーについては、私は「いるだけでいいよ」っていう言葉を掛けられて、すごく悩んだんですよね。頼りにもされてない、置き物みたいにただ存在するだけって…それはちょっとなぁと。でも、「ありたい自分でいたらいいよ、それを支えるよ」って言ってもらったときは、すごくホッとしました。ああ、生きててよかったって思いましたね。

司会:確かに、あなたがありたい自分でいてくれたら良いよ、という言葉はホッとしますね…ふじもとさんは、いかがでしょうか。

ふじもとみき:産婦人科とか他のその周りには、求めてもなかなか難しい部分があるなって。やっぱり第一子第二子の時、私は私立大学の病院に通っていたので、診る医師が毎回毎回違うんです。ある人は体重をもっと増やしましょうみたいなこと言ってくるけど、ある人にはこのくらいの増え方で大丈夫ですよって言われたり…そういうのに左右されていたらもう自分の頭と心がおかしくなっちゃう。なので、ある程度聞き流していたかなと思います。そういう意味では、あまり理解とか対応を求めていないかな、とも思ってます。
パートナーに対しては…私のパートナーは別に過食嘔吐してても、痩せちゃってても、太っても別に関係ないよ、いいよっていう感じなんですよね。最初から理解もあって。だけど、私の親からはずっと拒絶されてきました。摂食障害になる以前から、色々あったんですけど…摂食障害になって、いまだに病気の私は受け入れてもらえてはいないんです。今も、摂食障害がないものとして扱われてる感じです。
だから、最初パートナーに「大丈夫だよ」っていう感じで来られても、もう自分が受け入れられなくて。過食嘔吐するのに、誰かが近くにいる状態で吐くっていうのがもう怖くて…吐きたいけど、吐けない!わー!!みたいになってたり。食べてても落ち着かなくて、過食してる自分はいけないって言われているように感じちゃったりしてました。一言も過食しちゃいけない、なんて言っていないし、言われたこともないんです。そういう態度を取られたこともない。それでも、過食嘔吐しちゃダメ!って言われている感覚だったり、「うわぁやってるよ…」みたいな態度を取られてるって、勝手に思いこんじゃって。その感覚を、1年ぐらいかけて落ち着けたというか。ありのままの自分でいいんだよっていうパートナーの姿勢に、慣れてきたんですよね。そこから3年過ぎて、そういう「ダメって言われてる」みたいな感覚を忘れるぐらいには、今の症状があっても一緒に生活できるようになったかな。

ふじもとあつし:補足をしておくと私自身は「ありのままでいていいからね。君は君のままでいていいよ」みたいなことは言ったことはないです。そういう態度は取っているとは思うけど、あえて言葉にして表明したりはやっていないかなと思います。

司会:ありがとうございます。私自身はすごーく捻くれてるので「ありのままでいいよ」って言われたから信じられるかって言われると、難しい時はあると思うんです。そうなると、ふじもとさんのように結局態度で示していくということが必要なのかも、と感じさせられました。
それぞれのお話を通じて、本当に三者三様というか…過食嘔吐しながらの育児はしんどい、などの共通項はありながらも、妊娠への向き合い方、パートナーとの距離感、子育てに対する気持ちの持ち方、こういったところはバラバラだったように感じます。何か聞いてくださっている方にとっても、自分も同じだな、という共感や、そういう人もいるんだ、と視野を広げるきっかけになっていれば幸いです。
今日はありがとうございました。

<編集後記>

今回の対談を通じて、摂食障害を抱えながらの妊娠・出産・育児には「正解」がないということを改めて感じました。3組の体験談からは、それぞれ異なる道のりがあり、「こうだったら上手くいく」「こうしたら絶対に子育ては出来ない」…そんな極論は(当たり前なんですけど…💦)存在しないんだな、と思います。
摂食障害は、「治ってから次のステップへ」といった単純な道筋では語れない病気だと思います。症状が続いているなかでも、働きながら、学校に通いながら、あるいは結婚・出産・育児といったライフイベントと並行して、向き合っていく人も少なくありません。誰にどこまで話せるか、そのタイミングや内容も人それぞれ異なるからこそ、人生の節目やライフイベントにどう向き合うか、誰にも相談できずに抱え込んでしまう人もいると思います。
今回の対談では、摂食障害を抱えながら妊娠・出産・育児を経験した3組の方々が、正直な気持ちや体験を語ってくださいました。「完璧な母親にならなければ」「まず症状を治さなければ」という思いと、目の前にある命や家族への想いとの間で揺れ動く複雑な気持ち。過食嘔吐の衝動と子育ての両立に直面する困難さ。パートナーや周囲の理解を得ることの難しさ、そしてその大切さ。
この対談が、今まさにライフイベントの選択に迷っている当事者の方や、そのご家族にとって、少しでも参考になれば嬉しく思います。

<参考情報>

こころの病気や不調と妊娠・出産のガイド 「摂食障害(摂食症)」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A(日本産科婦人科学会・日本精神神経学会)