
そもそも妊娠・出産はしたかった?
司会: まず、皆さんが妊娠・出産を望んでいたかについてお聞きしたいと思います。
みきさん: 私はもともと3人兄妹で、子どもは欲しいなとは思っていました。生理が来ると健康になっちゃった、という感覚もあって、嫌な気持ちになることもありましたが、それでも子どもは欲しいと思っていました。
あつしさん: 私は正直、望んでいませんでした。もともと結婚も子どもも欲しいと思っていなくて、生涯独身でいたいタイプだったんです。自分の時間が何より大事で、やりたいことも沢山あったので…。みきと出会ってからその考えは変わりましたが、それでもお付き合いを始めた時には病気を治してから、その先に結婚があるよね、と話をしてました。10年くらいかけてしっかり治してから、と考えていたと思います。
そんな中で妊娠が分かった時は、正直困惑しました。妊娠検査薬を見ても「うわー、まじか」という感じで、ドラマのように手放しで喜ぶということはありませんでした。
みきさん: 私も嬉しい気持ちはありつつ、母親との関係でずっとトラブルを抱えていたので、自分が子育てをするビジョンが見えていませんでした。良くないことが起きてしまうんじゃないかな、という不安もありました。この人となら(大丈夫)、と思ってはいたものの、いざ授かった時は嬉しさと同時に戸惑いや不安でいっぱい、って感じでした。
頭と心が全部追いついていない状態だったかな、と。

司会: お二人とも、症状が軽くなってから/病気が治ってから妊娠・出産する方が良い、という考えは共有されていたんですか?
あつしさん: 私はそう考えていて、それを提案していました。
みきさん: 私も、一度この病気を知ってしまったら一生付き合っていかなければならないと思っていて。当時は症状が激しく出ていたので、もう少し落ち着いてからの方が子どもを育てる上でも良いのかな、とは思っていました。
司会: ふじもとさん、ありがとうございます。あやえさんはいかがでしたか?

あやえさん: 私の場合、子どもを強く望んでいました。第一子を妊娠した26歳の時は、子どもができることで自分の生きる意味を見出したいと思っていたというか…摂食障害が10年目になっていて、妊娠したらもうさすがに、やっと摂食障害を辞められるんじゃないかって、一縷の望みを託していました。
ただ、自分の土台が全く整っていない状態で、子どもに生きる意味を求めるような選択だったので、思ったように症状は良くならず、逆にどんどん悪化してしまって…パートナーとの関係も悪くなって、悪循環でした。
それでもやっぱり、自分自身もそんなに愛情いっぱいの家族で育ったわけではなかったのもあって、幸せな温かい家族を目指して治したいという気持ちがあって、5年後に第二子を出産した時も、強く望んで産みました。でも、やっぱりそういう気持ちから出産したので、その後も変わらず症状は悪化し続けて…第二子が1歳になる前に、離婚というところに落ち着きましたね。
その4年後に再婚して、安心できるパートナーができたんです。上の子たちも弟か妹が欲しいと言ってくれていたし、パートナーとよく話し合ったうえで、3人目の子どもを望むことになったんですけど…。でも、それでもやっぱりまだ良くならなかった。3人育児をしながらの過食嘔吐で崩壊しかけて、このままでは私も3人の子どもたちも死なせてしまうんじゃないか、って思ったんです。その時は睡眠薬やアルコール依存も入ってきていたので…。
それで、心の底から、摂食障害の克服を決意しました。結果克服することが出来て、そのあとに4人目の子どもが欲しいと思って。治った状態で初めての妊娠生活を送ることができたのが、つい昨年なんです。妊婦健診の前でもビクビクしない妊娠生活を、4人目にしてやっと送れました。
司会: 1人目2人目の時は「自分のため」という側面が強かったけれど、3人目以降は少し違った心境だったということでしょうか?
あやえさん: そうですね。第一子、第二子の時は、ママになる憧れや、この子がいたら治るのではないかという気持ち、キラキラしたママへの憧れもあったかもしれません。3人目以降は、そういった部分は薄れていました。
それと近いかもしれないんですけど…前の夫との関係では、正直「この人との子どもでなくてもいいから子どもが欲しい」という気持ちもありました。でも今のパートナーとは「この人と一緒に子育てをしたい」「この家族の中で子どもを育てたい」という、より大きな視点での気持ちがあった気がします。
司会: ありがとうございます。はなさんはいかがでしたか?

はなさん: 結婚した時は望んでいました。私も家族に悩んできていたので、憧れの家族像を作りたいという気持ちがあったんですよね。自分が摂食障害を持って大人になりきれていなかったので、このパートナーなら私は大人になっていけるかな、成長できるかなという思いがありました。
ただ、1人目の妊娠に至った時には、もうすでに望んでいなかったです。妊娠した当時は、子どもが大きくなっていったらいいな、育てられたらいいなとは思ったんですけど…いざ出産してみると、産院で「お母さん」「ママ」と呼ばれるのが鳥肌が立つほど嫌で。「それ以上呼ばないで」という感じでした。赤ちゃんが泣いているから授乳を、と言われても「もういいからやめてー!」っていう…そんな状態でした。今思えば、自分自身がまだ育っていなかったんだと思います。
でも、そうこうしているうちに、人間としてこの子をちゃんと育てないといけないという責任感が湧いていたんですよね。産んだ以上は、この子が1人で生きていけるように育ててあげなきゃいけない、と思うようになりました。
なので、子どもが可愛い、自分の子どもとして育てたい、家族になりたい…という感情ではなくて、この子が幸せに生きていけるように育ててあげなくちゃ、という気持ちでした。
2人目の時も、望んでいないタイミングでの妊娠だったんです。正直、この関係の中で産むのはかわいそうだと思って、中絶できる病院を探したくらい。でも、1人目を産んだ病院では受け入れてもらえなくて…上の子に「お母さんどうしよう」って相談した時に「私は産んでほしいよ」と言われました。だから、上の子にも下の子にも、人として成長して生きていってくれたらいいなという気持ちで出産することを決めました。
夫婦での話し合い
司会:ふじもと夫妻は、元々は摂食障害の症状が落ち着いてから結婚や妊娠など「次のステージ」へ…というお話があったと思いますが、そんな中で子どもを産むことには、お二人ともそれぞれに思うことが沢山あったと思います。どのような話し合いをされたのでしょうか?
あつしさん: 本当に2人でめちゃくちゃ話し合いました。泣いたり怒ったり、…笑うことはあまりなかったかな?(笑)
妊娠出産中にいろんなことが重なって、プライベートのトラブルもあって…私も当時は違う仕事をしていて、一緒に暮らしてもいませんでした。だから本当に、妊娠が分かった当時は全部が重なって、本当に大変でした。
夫婦で考えをすり合わせ話し合う中で、「摂食障害だから」という点で重要だったのは、みきの主治医の意見を聞くことだったと思います。自分がどう思うか、みきがどう思うかも大事ですが、やはり病気なので専門家の意見を聞く必要があると思いました。みきから主治医に話してもらい、3人で会話する機会を作りました。これは本当にやっておいて良かったことの一つだったと思ってます。
主治医の先生からは「産むのも産まないのも、どちらもリスクです」と言われました。身体的なリスクも当然ある。まだ体重も含めて身体的に良い状態とは言えない。もちろん、精神的なリスクも当然ある。子どもを産むのは一大事なので、それを乗り越えられるかは正直心配だと。
ただ、産まない選択をした場合のリスクについても説明してくださったんですよね。「おそらくすごく責任感があって思いの強い方だからこそ、産まなかった、つまり命をなくすことになるわけで、それを一生背負っていかないといけない。多分それを背負い切れないと思います。なので、どちらの方がリスクが高いかと言った時に、産まない方がリスク高いです」とはっきり言われました。
みきさん: 忘れてたけど確かに、そう言われたね。当時はいっぱいいっぱいで、覚えてなかったけど…
あつしさん: 私は最初、産まない方がいいんじゃないかって言ってたんです。今じゃない、必ず次のタイミングも来るから、その時にしないかって。でも主治医の言葉に、すごく反省させられました。一つの命があって、それを自分たちの沢山あるイベントの一つにしようとしていたことは、一生反省すると思います。そう気づかされるきっかけになった、すごく大事な意見でした。
摂食障害は、主治医との関係が大事だと思います。もちろん多くの方にとって、必ずしも良い主治医と巡り合えるわけではないと思うんですけど…みきに関してはすごく良い主治医に恵まれていて、本当に自分たちのことをよく分かってくださっていました。本来、精神科の主治医はそこまで踏み込んであろうし、普段はどちらかというと委ねてくるタイプなんですけど、その時ははっきり意見を言われたんです。だからこそ、そうなんだなと納得できました。
みきさん: 元々2人で話した時、私は産みたい、(子どもが)来てくれたんだから産みたいと思ってるって言ってたんです。それで、主治医から「みきさんなら大丈夫だと思いますよ」と言ってもらえて…とても心強かったです。
あつしが「またの機会もあるから今じゃない」と言った時も、私は「いや、もうこの子はこの子しかいない。違うタイミングでとか、また、とかじゃなく、もうこの子は来てくれない」って思いました。
あつしさん: 最終的にそれが決め手になって、この子に会いたいということで、産もうという結論に至りました。
医療機関や行政との関わり
司会: 夫婦間のリアルなお話合い、主治医との関わりなど、教えていただきありがとうございます。主治医以外にも、妊婦健診等で産婦人科の医師にも関わったりすると思いますが、摂食障害のことを打ち明けていましたか?
あつしさん:産婦人科医師にも伝えていました。私たちはハイリスク妊娠なので、精神科があってNICUがある病院、というのを絶対条件で探しました。当然、摂食障害のある妊婦として診てもらいましたし、その病院の精神科にもちゃんとかかっていました。
みきさん: 何かあった時のために、ということで、役所とも早い段階でコミュニケーションを取ってました。市や区に必ずいるケースワーカーさんや子ども家庭支援課の人とも、妊娠中から結構訪問してもらったりして…結構突っ込んだことを聞かれるんです。過去のこと、自分自身にあったこと、親との関係とか、事細かく。知り合いでは、そういうヒアリングを受けたことでフラッシュバックを起こしてしまった人もいるって聞いてたんですけど…多分、子どもを産んだ後に何かが起こった時にどう対応できるか?はもちろん、起こらないようにするために色々聞いていたのかなと思います。
あつしさん: みきは精神1級の手帳も持っているので、それだけで子どもを育てる能力がないと判断されたら、児童相談所が出てきて子どもを引き取られてしまうかもしれない。そういう話も聞いたことがあるので、今でもすごくビビっています。夜泣きするだけで、虐待を疑われるんじゃないか?と思うこともあります。
ただ、どうするのが良いか答えがあるわけではないんですけど…私たちがやっているのは、とにかく行政を味方にするしかない、ということです。児童相談所も含めて、なるべく仲間にする。今の家も役所のすぐ裏にあります。いざとなったら歩いてでも役所に行ける場所に住んだ方がリスクがないと考えました。今も子ども家庭支援課の担当の方とはめちゃくちゃ仲良くて、勝手に家庭訪問に来てくれるくらいです!(笑)
いざという時に「いやいや、藤本さんにはそんなことないですよ」と言ってもらえるようにしたいと思っています。そのためにも、打ち明けられる先は増やしたいと思っています。
産むこと、生きることを選んだわたしたちへ。~摂食障害と妊娠・出産・育児~②へ続く
<参考情報>
こころの病気や不調と妊娠・出産のガイド 「摂食障害(摂食症)」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A(日本産科婦人科学会・日本精神神経学会)