『自分には価値がない』と思い続けた私が、過食嘔吐を乗り越えて自分を受け入れられるまで
OB・OG訪問室

『自分には価値がない』と思い続けた私が、過食嘔吐を乗り越えて自分を受け入れられるまで

  • 元当事者
  • #仕事
  • #治療
  • #結婚・パートナーシップ
  • #自己理解
  • #過食嘔吐
自己否定の気持ちから過食嘔吐が始まり、約20年間にわたって摂食障害と向き合ってきたみどりさん。カウンセリングや資格取得、自分を受け入れてくれる人との出会いを通じて少しずつ症状が改善し、その過程で自信を育んでいった歩みについてお話を伺いました。
この記事に紹介されている人のプロフィール
みどりさん・40代

10代後半から約20年間、制限型拒食と過食嘔吐を経験。環境の変化や自己分析を通じて自身の強みや適性を知り、徐々に症状が和らいでいきました。現在は司法書士として働く一方で、若い世代に「自分を知ることの大切さ」を伝えたいとの思いから、大学生への指導にも力を注いでいます。

子供の頃から抱えていた気持ち

—— 幼少期はどのようなお子さんでしたか?

小さい頃から、自己肯定感があまり高い子供ではありませんでした。そんな風になった一番最初のきっかけは、両親の夫婦喧嘩だったと思います。家庭内で起こることを自分のせいだと感じて溜め込んでたような気がするんです。それで自分に価値がないって思うようになったんだと思います。

自分のことがどのくらい嫌いだったかを説明するのは、すごく難しくて。周りの人たちから「可愛い」と言われることもあったんですが、心の中では自分には価値がないって本気で思っていました。これが理由で、前は本当に好きになった人と付き合えなかったんです。 ちょっと両思いかもって思っても、相手に対して申し訳なくて近づけませんでした。「こんな価値のない自分が、その人の時間を奪っちゃいけない」って思ってしまって…。逆に、自分が嫌いな人となら付き合えたんです。不思議ですよね。

あとは、自分に価値がないと思っていたから、「見た目ぐらいはちゃんとしないと」っていう気持ちもすごく強かったです。見た目がちゃんとしてないと、もう本当に何もないと思っていました。自分のことを全然大事にしてなかったです。

資格取得のための勉強が自分の自信へ

—— その後、ご自身への向き合い方や生活に影響を与えるような出来事はありましたか?

19歳から27歳まで付き合っていた人がいたんですが、その人はモラハラ気質で、当時受けた影響は大きかったと思います。ほぼ脅されるような状態で、別れた後もストーカーされていました。司法書士登録をして勤務先や名前がネット上で検索できるようになるのが怖かったので、自分の実家に帰ってからもしばらくは登録をせずに法律事務所で働いてました。その人と付き合ったのは、自分が嫌いすぎて、好きな人と付き合うのが申し訳なかったからです。 ただ、当然嫌いな人とうまくいくはずもなく、相手の性格もあって、どんどん状況が悪くなっていきました。

彼と付き合っていた当時、過食嘔吐も頻繁にしてました。 ストレスで飲みに行って、たくさんお酒を飲むことも多くて。そうすると太ってくるから、また「痩せなきゃ」と思って。この頃が自己肯定感が一番低かった時期だと思います。そんな状態の中で、司法書士の資格を取る勉強をしていました。勉強を勧めたのはその彼だったんですが、私にとってはそれが救いでした。勉強している時だけは自由だったんです。 それもあって必死に勉強して、2年で資格を取ることができました。

—— その状況で勉強を続けられたエネルギーはどこから来ていたのでしょうか?

実は私、勉強をやめることができなかったんです。「勉強なんかしていないで、お金を稼がなきゃ」ってずっと思ってたんですけど、それでも勉強してしまう。資格がお金になったのは40歳近くになってからで、それまでは「なんでこんなに勉強ばかりしてるんだろう」って思ってました。その後、自己分析をする中でストレングスファインダーっていう診断をしたんです。そうしたら上位が「学習」と「収集欲」で、勉強が自分の才能だったってわかりました。当時の自分の状況と勉強することがたまたまマッチして、そこは幸運だったなと思います。

司法書士に受かった時、初めて人間になった気がしました。 それまでは本当に自信がなかったんですが、資格に受かった時、「これでやっと、男性と対等に話せる」って思えたんです。

一人で過食嘔吐に向き合った時の気持ち

—— 過食嘔吐の症状について、誰かに相談されたことはありますか?

誰にも話してないです。親も含めて、今まで一度も言ったことがありません。自分の中では、そんなに大した問題じゃないと思っていたんです。その後、同棲した人は家に帰ってくるのが遅かったので、過食嘔吐をしても気づかれることがありませんでした。誰かに話すなんて考えたこともなかったし、もし相談するとしてもカウンセラーかなって思っていたくらいです。

精神的に不安定だなとか、自分に何か問題があるのかもしれないなというのは感じていました。でも、それがうつ病とか身体的な病気として現れてこなかったので、「まだ大丈夫」と思っていたんです。症状の辛さよりも、仕事のこととかストーカーされてることの方がずっと辛くて。 その辛さを乗り越えるために食べ吐きをしてるから仕方がないって感じでした。太ることへの恐怖はありました。でも同時に、ドーナツとかカロリーの高そうなものが食べたい。その矛盾を解決する方法として吐いていたんだと思います。

カウンセリングが自分を受け入れるきっかけに

—— 30代の時に大きな変化があったそうですが、どのような時期でしたか?

35歳の時、当時同棲していた人と分かれました。それで「自分に何か問題があるんじゃないか」と真剣に考えるようになりました。摂食障害を直したいというより、パートナーシップがうまくいかない原因を知りたくて、いろいろ調べていた時期でした。

アダルトチルドレンやHSPという言葉が、自分の性質に当てはまるような気がしたんです。そんな中でネットで見つけたのが、セラピーをやってるカウンセラーさんでした。カウンセリングで色々なことについて話していく中で、インナーチャイルドのセラピーを受けることになりました。インナーチャイルドのセラピーでは、子供の頃の自分に会いに行ったんです。カウンセラーさんに「その子供の頃の自分ってどんな印象ですか」と聞かれた時、驚いたことがありました。子供の頃の自分がすごく可愛かったんです。ずっと子供の頃の自分を嫌ってたのに、実はすごく可愛かったってわかって。そこから少しずつ自分に対する嫌悪感がなくなっていきました。

カウンセラーさんと記憶や考えを整理していく中で、親の不仲が子供の頃の私に影響していたということもわかりました。そうやって自己嫌悪が消えていったのが、自己肯定感につながったんだと思います。

人生の転機となった環境の変化

—— セラピーを受けた後、生活面ではどのような変化がありましたか?

その後、半年くらいして今のパートナーと出会いました。本当に運が良かったんですが、すごくいい人で…。何より、私の方からアプローチして「この人とお付き合いしたい」と思った人が初めてだったんです。 それまでは嫌いな人と付き合ったり、猛烈にアプローチされて付き合ったりしていたので。その人は精神的にとても安定していて、私のこともすごく大切にしてくれます。信頼できる、しかも自分が好きだと思った人と初めて付き合えたので、その安定感はすごかったですね。自分に対して持っていた無価値感を、相当埋めてくれたと思います。

同じ時期に、司法書士の仕事にも就きました。色々な資格を取ったけれど、司法書士が一番性に合ったんです。話を無理に盛ったりする必要もないし、法律に沿った手続きをするのが仕事なので、ストレスがすごく減りました。職場環境もよくて、ほとんど1人で仕事ができました。同時並行で自己分析を進めていたこともあって、徐々に過食嘔吐の頻度が減っていきました。 たまに飲みすぎて気持ち悪くて吐くことはあったんですが、びっくりするくらい改善しました。

—— 今のご自身の体調についてどう感じていらっしゃいますか?

私は摂食障害や食べ吐きに対して、それほど強い嫌悪感を持っていたわけではありませんでした。自分の人生が大変な時期に問題を解決するための一つの方法にしていたような感覚もあります。 だから、もし今後も同じような状況になったら、また解決方法として使う可能性があるかもしれないなと思うんです。そういう意味で「治った」とは言いきれないと感じています。

それに、症状が収まったのも、他の理由があるんです。SIBO(小腸内細菌異常増殖症)という症状が出て、特定の食べ物を取るとお腹を壊すようになったんです。前職の頃からよくお腹を壊していたんですが、原因がやっとわかりました。玉ねぎ、ニンニク、ごぼう、さつまいも、小麦粉など、食べるとお腹がパンパンに張ってしまうものがたくさんあって。お腹が張って、太って見えるのが嫌だったので、食べ物に気をつけるようになりました。そうやって何年間もかけて、自分は何が食べられて何が食べられないのかを調べているうちに、健康のために食欲をコントロールできるようになったんです。あとは、年齢的に食べられなくなってきたこともあります。

ただ、過食嘔吐の頻度が減った一番大きな理由は、やっぱり精神的に安定したことだと思います。環境が良くなって、信頼できるパートナーができて、自分に合う仕事に就けて。そういう変化があったから、症状が出なくなったのかなと感じています。

同じ痛みを抱える人たちへ

—— 同じように悩んでいる人に向けて、伝えたいことはありますか?

「自分を知ることは大切」ってよく言われるじゃないですか。「もうやってるよ」という人もいると思うんですが、私は自分を知る方法とか、自分への向き合い方、親との向き合い方を教えてもらったことがなかったんです。

こういうことがきちんと確立されて、教育の中でも教えられるようになったら、悩む人がもう少し減るんじゃないかって思います。もっと若い時から幸せになれるんじゃないかって。私が学生に対して教えたいと思ったのも、若い人たちと接したいし、自分の体験が少しでも役に立てばいいなと思ったからです。い世代に何を残せるかを考えた時、自分を知る方法や向き合い方を伝えていきたいなと。自分が自然にやれることを見つけていくことが大切だと思ってます。

あなたにおすすめの記事