就活への不安が生んだ「痩せなければ」という思い
—— まず、摂食障害の症状が始まったきっかけを教えてください。
大学3年生の秋、就職活動の時期でした。「アメリカでは体重や体型を自己管理できない人間は出世に支障がある」という情報に触れたのがきっかけだったと思います。当時、コミュニケーション能力に長けていなかった自分にとって、就職活動は苦難の連続でした。就活中、不安な気持ちの中でその情報に触れた時、「体重や体型を自己管理できない人間は、就職ができない」と極端に解釈してしまったんです。
—— 最初はどのような症状から始まったのでしょうか?
最初は少しずつ食事量を減らすことから始まりました。私が聞いた情報はアメリカの出世に関する話だったんですが、自分の頭の中で「痩せていないと就職できない」「痩せていないと人生がうまくいかない」のように、どんどん話が大きくなっていったんです。他にもテレビで見た健康番組や雑誌の記事の情報が就職への不安と混ざって、「とにかく痩せなければ」という気持ちが強くなっていきました。今思えば、最初のきっかけとは関係のない話まで、全部繋げて考えるようになっていました。
—— 症状はどのように変化していったのですか?
次第に過食嘔吐へと発展していきました。初めのうちは、食べたいだけ食べても太らないどころか、痩せることもできる、なんて素晴らしいんだと感じていました。
でも、その考えは長くは続かなかったです。睡眠時間を削って、体への負担も大きくなる。時間も取られるし、当然お金もかかる。でも一番辛かったのは、自分で自分をコントロールできない感覚でした。
「止めたいのに止められない」が続いた日々
—— 当時、周囲に相談できる人はいましたか?
当時は医療機関にもカウンセリング機関にも通っておらず、摂食障害という言葉すら知りませんでした。過食嘔吐なんて言葉も知らなかったので、「こんなことをしているのは世界中で自分だけなんじゃないか」と思い詰めるようになっていきました。
そして、「どうして自分はこんなことを止められないんだろう」と考えるようになったんです。だって全部自分の意思でやっていることじゃないですか。自分で食べ物を買いに行って、自分で食べて、自分で吐く。誰かに強制されているわけでもない。本当に嫌なら止めればいいはずなのに、どうしても止められない。それがとても辛かったです。
辛さが極限まで達した時、ふと気がついたんです。「寝ている時だけは過食嘔吐をしない」って。それから、ずっと意識がなければ、この苦しみから解放されるんじゃないかと考えるようになって、最終的に自殺未遂を試みました。この出来事により、過食嘔吐が摂食障害という病気の症状だということを知ることになったんです。
—— 初めて「病気」という診断を受けた時の気持ちはいかがでしたか?
自殺未遂をきっかけに精神科を紹介され、そこで初めて自分が摂食障害であることを知りました。でも、その時は病気という認識すら持てませんでした。病気と言われても、あまりピンとこなかったんです。医師に言われたから仕方なく通院していたという感じで、「少しずつ治療していけば治るから先生に任せよう」なんて前向きな気持ちにはとてもなれませんでした。病院で処方される薬も、食欲を抑える鍼治療も、私には効果がありませんでした。薬や外的な治療で自分の症状が改善するということはないんだろうという気持ちが強くなっていきました。
二つの出来事が転機に
—— その後、転機となった出来事などはありましたか?
大きな転機となる出来事は二つありました。一つ目は、カウンセリング機関での一人の男性との出会いでした。
その方も摂食障害で、30代半ばだったのに、見た目は50代にしか見えませんでした。すごく痩せていて、過食嘔吐の影響で歯も失われ、口元がシワシワでした。その時初めて自分の未来を具体的に想像して、「もしかして私もこうなるんじゃないか」と思いました。当時の自分は既に3年から4年ほど過食嘔吐が止められずにいました。このまま止められないなら、きっと10年後も同じでしょう。「自分が35歳になった時に、あの人のような見た目になるかもしれない」。そう思うと、本当に怖くなりました。「10年後にこの男性のようにはなりたくない」「変わらないといけない」と心から思ったんです。
—— 二つ目の転機についても教えてください。
二つ目は、人との繋がりの大切さへの気づきでした。
テレビで恋愛番組を見ているうちに、自分の生活との隔たりを痛感するようになったんです。20代半ばって、パートナーがいたり、人と食事に行ったり、そういうことが人生の大きな部分を占める時期ですよね。でも、当時の自分には、人との繋がりがほとんどありませんでした。食事をするのが困難だから、飲み会にもほとんど行けないし、行っても楽しくない。異性との出会いも、まず食事から始まることが多いのに、それすらできない。
こんな人生は悲しすぎる…。この二つの出来事が、私のなかで考え方を変える、大きなターニングポイントでした。
—— その後、どのようなことを始められたのですか?
「多少体重が増えてもいいから過食嘔吐を止めたい」という思いが強くなりました。会社を辞め、バイトをしながら少しずつ生活を立て直していきました。吐かずに食べるにはどうしたら良いのかを考え、食物繊維の多いものを選んだり、いろいろと工夫しました。すぐには変われなかったけど、少しずつ変化が起きていきました。
その後、考え方について整理してみたんです。カロリーや体重へのこだわりって、生まれつきのものじゃないですよね。今まで生きてきた中で覚えたことだから、また覚え直すこともできるんじゃないか、考え方を転換できるんじゃないかと思うようになりました。
同じ痛みを抱える人たちへ
—— 同じような状況で苦しんでいる方へのメッセージをお願いします。
もし今、苦しんでいる方がいれば伝えたいことがあります。摂食障害で苦しんでいる方々に必要なのは、努力や自己管理能力ではないと思うんです。あなたに必要なのは、あなたにあった情報や、あなたの状況を理解してくれる人との出会いです。「絶対に摂食障害は治らない」という思いも、きっと変わる時が来るはずです。色々なきっかけや時間の経過で、考えが変化することはありますし、私自身がそうでしたから。どうか諦めないで、今できることを一つでも続けてほしいです。
一人でも多くの方が、一日でも早く摂食障害の苦しみから解放されることを願っています。そのために、私にできることを、できる範囲でやっていきたいです。
keiさんとお話してみたい方へ
keiさんは摂食障害ピアサポート Ally Meの登録ピアサポーターとしても活動中です。
お話してみたい方は、下記リンクよりAlly Meについてご確認の上、お申し込みください。
