容姿への劣等感からダイエットへ
—— 摂食障害の症状が始まったきっかけを教えてください。
高校生の時に仲の良かった友達がいたんですが、その友達2人が、一般的に見て可愛いと言われるような容姿をしていたんです。私はどちらかというと、可愛いというよりかは、身長が高く、髪型もボーイッシュな感じでした。
高校生になってその友達2人と一緒にいた時に、私以外の2人に向けて「あの子たちはかわいいよね」と言われているように感じる言動があって..。直接的に何かを言われたことはなかったんですけど、そうやって友達二人と自分を比較するうちに、自分の容姿への劣等感を抱くようになりました。背が高いのは変えられないので、「背が低くて可愛い」みたいなイメージに自分が寄せるのは難しいと思ったんです。その時、背が高くて細い体型だったら、人から綺麗だといってもらえるんじゃないかという考えが浮かびました。
ある時、その友達2人とご飯に行って、あまり食べないようにできる限り水を飲んでやり過ごした日があったんです。そうしたら、多分水を飲みすぎたことでお腹がタポタポになってしまって、家に帰って少し吐いてしまいました。その時、「今食べたものが出たから体重は増えないな」みたいなことを安易に思ってしまったんです。そこから友達とご飯に行って沢山食べてしまった時、お水をたくさん飲んで吐いて、元に戻したような気になることを始めてしまいました。
—— 大学生になってからはどのような状況でしたか?
20歳を過ぎてからお酒を飲むのが好きになって、週2、3回ぐらい飲酒をしていました。当時はサークルの中での飲み会も激しくて、飲んでない人に対して「もっと飲め」ってコールしたりするのがノリとしてあった時代でした。私はお酒を飲むのも、みんなで盛り上がるのも好きだったので楽しく飲んではいたんですけど、やっぱり体重が増えるのがどうしても気になってしまって。大学生になって少し体重が増えたなという気がしていたんです。大学時代の4年間は飲んだり食べたりしても、吐いてしまえば大丈夫と思って、週に2、3回は吐いていました。大量に飲んだ後にそのままトイレで吐いて、何食わぬ顔をして友達の中に戻るということを繰り返していました。
人との食事を避けるようになった新卒時代
—— 社会人になってからは症状にどのような変化がありましたか?
大学を卒業した後に、当時付き合っていた彼氏と別れてしまったんですが、私は相手に未練があって、何とか元に戻せたらいいなと思っていた時期がありました。仕事に一生懸命取り組んで、充実した生活をしながら自分のマインドを変えれば、また容姿共に魅力的な人間になれるんじゃないかと思いました。ずっと標準体重ぐらいだったんですが、徐々に「もう少し痩せた方が魅力的に思ってもらえるのかな」「流行っている服を着るにはもう少し細い方がいいのかな」という風に思考が変わっていきました。
そこで、炭水化物を抜くダイエットを始めたんですが、全然自分には合わなくて。お米だったりパンが好きだったので、好きなものを食べられないというストレスから、週末になるとどうしても我慢ができなくなってしまったんです。買い物に行って好きなだけ菓子パンやスナック菓子、カップラーメンを買い込んで、家に帰ってそのまま台所で食べたりすることも多かったです。でも、食べた後にどうしても罪悪感というか、「こんなことをした自分が許せない」みたいに思って大量に吐く、ということを繰り返すようになりました。
吐いた後は苦しいので、もうこんなこと絶対やめようって思うんです。週末に過食嘔吐をしても、週明けには切り替えて会社に行ってました。平日は節制した食生活を送っていたんですが、週末になると我慢できなくなってしまって。先にバーっと水を飲んでから吐きやすい状態にしていっぱい食べて、トイレにこもって吐いて。吐けないと焦って口の中に指を突っ込んで、というようなことをするようになったんです。
—— 職場での食事についてはいかがでしたか?
会社では、お昼に食堂に行ったり、外でランチを食べたりする人が多かったんですが、私はその食事がすごく怖かったんです。自分は茹でた野菜やタンパク質を摂るための豆腐、胸肉などをメインにしたサラダのようなものを持って行っていました。それを食べてる自分を見られるのもちょっと嫌だし、誘ってもらって一緒に行く先のご飯を食べるのも怖くて。食事に誘われそうな時間の少し前にトイレに隠れて、みんなが行ったなと思ってから会社のデスクで1人でお昼を食べたりもしていました。
キャリアチェンジと心の中での葛藤
—— その後、転職を考えられたきっかけは何でしたか?
実は小さい時に保育士に憧れてから、保育士になりたいという気持ちをどこかでずっと持っていた気がします。進学校にいたので、4年制大学に行ってほしいというのを学校側からも言われていたし、両親からも、いろんなものを見た上で考えた上で保育士になれた方がいいよということを言われていたんです。
新卒で入った会社は思ってた以上に激務で、生活リズムを整えるのも難しかったです。摂食障害の症状がある状態で、朝夜関係なく働く生活スタイルが身体的にも負担になっていると感じたので、「このまま10年20年いられる業界じゃないな」と思って転職を決めました。その時、「保育園の年長クラスで赤ちゃんのお世話体験をさせてもらった時に、食事の介助をするお手伝いが1番楽しかった」という経験が、印象深く心に残っていたことを思い出しました。赤ちゃんがもっとちょうだいと食事をせがんだり、おいしくて笑顔を見せてくれるのが子どもながらにとても嬉しかったんです。
自分が今、食に困って辛い思いをしてる時に、その原体験を急に思い出してしまったというのが1つの縁というか繋がってるなと思って、保育士を目指してみようかなという気持ちが芽生ました。子供の栄養について勉強する中で、「自分の食生活を見直さなきゃいけないな」とか、「子供たちの健やかな成長を支えるための仕事なのに、自分が不健康であるのは良くないな」と感じ始めたんです。でも、頭の中で食がすごく大切だとわかっていても、やっぱり実際に行動を変えていくのは難しくて…。毎週末の過食嘔吐は中々止められませんでした。
—— 症状による身体への影響を実感されたことはありましたか?
ある時、喉の調子が悪くて病院に行ったら歯が溶けてるって言われたんです。逆流性食道炎で炎症が起きていると言われた後に、「歯が溶けて虫歯になってる。お酒飲んだりした後に嘔吐とかしてない?」と聞かれてしまって。「結構お酒は飲むし、吐いたりもします」と伝えたら、「結構そういう人多いけど、歯は溶けたら戻らないからちょっと気をつけた方がいいよ」みたいなことを言われました。
その時は、今痩せられるのなら、少しぐらい歯が悪くなってもいいかなと思っていました。ですが今振り返ると、その時に考えていたよりもその後の人生は長くて、健康を失った体で生きていくことはやっぱり辛いので、軽く考えてはいけなかったと思います。
この他にも色々な出来事が重なって、「嘔吐をして過食したことを無しにする」というのから、「運動をする」という方向に考えがシフトしていきました。そうしたら今度は、「運動を沢山して、食べた分をマイナスにしよう」みたいに思ってしまって。ジムにも週3回か4回は絶対通うと決めていました。嘔吐の頻度は減ったんですが、過度な運動をすることで過食を帳消しにするようになったので、ポジティブに過食をやめられたわけではなかったです。
自分を受け入れてくれる人との出会いが与えた変化
—— 現在のご主人との出会いは、どのような影響を与えましたか?
夫は容姿に対してあまりこだわりがなく、体重が増えたりすることも深刻に捉えないタイプなんです。夫も私も、お酒を飲むことや食べることが好きで、そういう共通点もあって仲良くなりました。夫と出会った頃には元彼への未練もなかったですが、やっぱり「痩せているほうが可愛いし、魅力的だ」と思っていました。
なので、夫に出会った当初は、食べすぎたなとか、飲みすぎたなと思ったら、家に帰ってこっそり吐いたりもしていました。でも、一緒に住むとなった時に、これからは吐いたりできないなと思って。引っ越す先の家の近くにジムがなかったのもあって、定期的な運動も難しくなりました。でもいつかは、食や体型への強いこだわりを手放したいと思っていたし、体型を維持するために血眼になってする運動が、このままずっと続くのかと思うと怖くもなりました。
夫だったら、私の体重が増えても何も言わないだろうという感覚があったので、ジム通いもやめて、好きなものを一緒に楽しく食べたいと思ったんです。「食べても大丈夫、絶対大丈夫。私が太っても痩せても、この人の私への評価は変わらない」というのを自分に言い聞かせていました。楽しかった時間まで吐き出してしまうようなことはもうしたくなかったんです。吐きたい衝動はあったんですが、「絶対に吐かない」と思って、トイレで泣きながら堪えるということを何度も繰り返しました。
そういうことを繰り返しながら、吐かない自分を認めるというか、「体型が変わるのは当たり前だし、体型が変わったからといって誰からも責められない」という風に考えが変わっていきました。少しずつ食べる量を増やしていったんですが、ポンと体重が増えたりもしなかったので、「やっぱり食事って楽しいもんだな」とか、「ご飯って普通に食べたら美味しいな」みたいな感情にも気がつきました。少し体重は増えたんですけど、それをだんだん受け入れられるようになっていったんです。
—— ご主人から受け入れられているという実感は、どのような場面で感じられましたか?
ある時、美容整形をしてみたいなということをポロっと夫に言ったんです。どういう反応をされるのかなと思ったんですけど、「いいんじゃない?」と言われて。その後に、「今のままで好きだから別に何にも気にしないし、見た目がどうなろうと自分が持ってる感情は変わらないけど、君がやりたいならやっても良いと思うよ」という反応だったんです。私の体重が増減しても、この人の私への気持ちは変わらないんだという実感を持てた時、ずっと体重に囚われてきた思春期って勿体なかったなと思いました。
—— 現在は、どのような生き方の変化を感じていらっしゃいますか?
元々、自己肯定感はそこまで低い訳ではなかったと思うんですけど、思春期に入って、他人からどう見られるかということに囚われるようになっていきました。真面目な性格もあって、「こうじゃなきゃダメ」「こういう風に振る舞うべき」のような気持ちを持っていました。会話の中で嫌なことを言われても、その場の空気を悪くしちゃいけないと思って、自分の気持ちよりも周りに合わせることを優先していました。
でも、夫と結婚してから摂食障害の症状も出なくなって、自分に対する考えも大きく変わったんです。夫自身が、体型に関わらず自分の好きな服を着るようなタイプの人だったので、私も体型や見た目に執着していた気持ちが和らいでいきました。以前は「この服、綺麗に見えるかな」「相手にいい印象を与えられるかな」って考えて選んでいたんですけど、今は自分が着たいものを着て、今まで挑戦しなかった髪色も試しています。
発言も変わりました。嫌なことは嫌だと伝えられるようになったし、人から言われたことを全部間に受けることもなくなったんです。服装も髪型も発言も、少しずつ自己主張できるようになってきたと思います。
同じ痛みを抱える人たちへ
—— 同じように悩んでいる人に向けて、伝えたいことはありますか?
自分を肯定するって本当に難しいことだと思うんです。特に今はSNSで他人と比べやすい環境だし、私自身、異性に言われた言葉に囚われていた時期がありました。でも振り返ってみると、そういうのって生きていく上ですごく小さなことだったなと感じています。
真面目な人や「こうじゃなきゃダメ」って思いがちな人は特に、色々と悩みやすいのかなと思います。でも、体型や見た目が人生の全てではないです。1日ぐらいカロリーの高いものを食べても、自分を許してあげて大丈夫。食事を楽しめなかった時期や、断り続けた飲み会のことを思い出すと「もっと楽に考えればよかった」という気持ちになりますし、正直この経験はしない方がよかったなと思います。経験したから強くなった部分もありますが、できる限り同じように悩む人が減ってほしいというのが本当の思いです。
当時、自分のことを認めてくれる人の存在に気づけて、やっとメンタルが安定しました。だから、過食嘔吐に苦しんでいた過去の自分には「あなたのことを大事に思ってくれる人がちゃんと周りにいるから、そんなことしなくても大丈夫だよ」って伝えてあげたい。「今は何を言っても響かないかもしれないけれど、人生を生きていくうちにきっと自分を認めてくれる人との出会いがあって、少しずつ自分への見方を変えられるから大丈夫だよ」って言いたいです。

