「食べるのがこわい」気持ちに伴走する栄養指導 ~精神科管理栄養士と考える、これからの支援のかたち~
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「食べるのがこわい」気持ちに伴走する栄養指導 ~精神科管理栄養士と考える、これからの支援のかたち~

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食べられないことを責められるのではないか、吐いてしまったことを知られたら怒られるのではないか――。
そんな不安から、管理栄養士まで“こわい存在”として感じてしまう人も少なくありません。
けれど本来、管理栄養士は「食べなさい」と命じる人ではなく、私たち当事者ができるスモールステップを一緒に考え、栄養の専門知識をもって寄り添い続けてくれる“伴走者”です。

今回のイベントでは、精神科領域の第一線で活躍されてきた阿部裕二先生をお招きし、精神科栄養指導の中で共通して大切にすべき視点と、摂食障害に対して管理栄養士が出来る支援のあり方を対談形式でお話しいただきました。
また、実際に摂食障害専門管理栄養士による栄養指導を受けた当事者家族のひだまりさんに、「摂食障害のことを良く分かってくれる管理栄養士さんと話すと、どんな良いことがあるの?」というような体験談をお話しいただきました。
この記事に紹介されている人のプロフィール
阿部裕二先生、ひだまりさん

阿部裕二先生:
修士(心身健康科学)、管理栄養士。2000年東京農業大学短期大学部栄養学科卒、2008年人間総合科学大学大学院修了。
2009年から12年間にわたり国立精神・神経医療研究センターや国立国府台医療センター(旧・国立国際医療研究センター国府台病院)で専門医と協働し、摂食障害患者の入院・外来診療に多数関与。その他にも入院・外来患者の栄養管理・栄養指導、NST、給食管理などに従事。
精神科栄養学領域の実践・研究にも意欲的に取り組み、功刀浩氏と共編著「臨床に役立つ 精神疾患の栄養食事指導」などを監修しながら、精神科と栄養支援の橋渡しを担っている。

ひだまりさん:
摂食障害の娘を持つ当事者家族(母)。娘が拒食症に罹患しており、食に対するこだわりが強く、最近は強いヴィーガン志向のため、家での食事準備・旅行先での食事対応などに苦慮している。摂食障害専門管理栄養士に対するオンライン栄養相談を受けた経験あり。

摂食障害の栄養指導とは? ~阿部裕二先生トークセッション~

そもそも、精神科での栄養指導ってどんな感じ?他診療科での栄養指導と何が違うの?

精神科での栄養指導は、実は内科や外科と大きく異なるものではありません。血圧の管理や体重の調整といった基本的な栄養指導の枠組みは同じで、食事内容を整える点では共通しています。しかし現場では、精神科はどこか区切られて扱われ、医療者側も患者側も無意識に線引きをしてしまう傾向があります。管理栄養士自身も「精神科の患者さん」「一般科の患者さん」と分けて考えてしまう場面が少なくないです。

精神科の管理栄養士さんは、普段どんな栄養指導をしているの?

精神科では、統合失調症や、急性期より後のうつ病、認知症などの患者さんを中心に、体重増加が起こりやすいことから、肥満に関する指導が特に多いです。一方で、近年は低体重の患者も増えており、必要なエネルギーを確保するための支援も重要な業務になっています。うつ病による食欲低下と、摂食障害の「食べることがこわい」は性質が異なるものの、どちらも“食べられていない状況”を支える点は共通しています

管理栄養士さんにとって、摂食障害の栄養指導ってどんな印象?

摂食障害の栄養指導は、多くの管理栄養士にとって「緊張する」「難しい」と感じられる領域です。背景には、ケース経験の少なさや、他疾患のように数値目標だけでは進められない難しさがあります。摂食障害では、体重増加がゴールになることが多いですが、そこに至るプロセスも重要で、患者との信頼関係の構築などを考えると、時間とエネルギーが求められるものになります。「食べることが怖い」疾患なので、患者さんにとって「怖いもの」を扱わなければならず、「食べません」「食べましょう」の押し引きにも陥りやすく、どういう言葉をかけたら良いか、どう雰囲気作りをしていったら良いかと考えていかなければならない緊張感もあります。

実際、病院では摂食障害の栄養指導をどんなふうに進めてるの?

摂食障害の栄養指導では、単に「カロリーを増やしましょう」と勧めるだけでは機能しづらい部分があります。むしろ、患者が食べ物に対して抱く不安や抵抗感をどれだけ「薄めていけるか」が鍵になります。話し合いを重ねる中で、「少しだけ食べてもいいのかも」という小さな変化が生まれれば、それ自体に大きな意味があります。しかし変化は目に見えにくく、回数を重ねる中で少しずつ結果が見えてくることになります。そのため、これまで患者が過ごしてきた食生活を尊重し、根底から変えてしまうというのではなく、そこをスタートにして「どう良くしていくか」をじっくり考えていくことが大切になります。

これから摂食障害に関わりたい管理栄養士さんに伝えたいことは?

摂食障害の栄養指導は、結果がすぐに見えず難しさも多い一方で、「関係性を通して少しずつ不安を薄めていける」非常に意義のある仕事だと思っています。重要なのは、焦らずじっくり患者さんが安心して話せる場を作ること食べる量を増やすことよりも、まずは「その人の感じている恐怖や迷いを理解しようとする姿勢」が求められます。また、患者の身体状況によってはカウンセリングだけでは対処できないこともあるため、栄養指導でできる限界を知り、早期に医師などへ連携することも大切になります。

摂食障害専門管理栄養士と面談してどうだった? ~ひだまりさんトークセッション~

摂食障害になってから頼ってきた医療や行政機関の反応

娘の体重が少しずつ落ち始めた頃、「摂食障害かもしれない」と不安を抱えながら、摂食障害の名前をホームページに挙げている精神科や内科、訪問看護など、さまざまな窓口を頼ってきました。しかし実際には、「ここでは難しい」などと早い段階で突き放されてしまったり、深刻さをはっきり伝えてもらえなかったりと、戸惑いの多い経験が続きました。BMIや危険性についての説明も得られず、「どこまで痩せてしまうのだろう」という不安のもと日々が過ぎていきました。歩くたびに転んでしまう娘の姿を前に、「もう限界だ」と感じたタイミングで入院を申し出た結果、ようやく医療保護入院となりました。

摂食障害専門管理栄養士とのオンライン相談で、印象に残ったこと・安心できたことは?

退院後、体重の増加を気にした娘がヴィーガンに関心を持ち始めたのですが、それでは足りない栄養素があるのではないかと不安があったため、栄養相談を受けることにしました。実際の栄養相談では、オンラインでも笑顔で対応していただけて、海外のヴィーガン事情、特に摂食障害の症状から発展するヴィーガンとの違いについても詳しく教えてくださったのが印象的でした。「白米は食べられない」と伝えたところ、「じゃがいもやかぼちゃなら食べられますか?」と具体的な食材ベースで話していただけたので、実際に食生活の変化に繋げることができました

相談する立場のご家族から見て、「こういう管理栄養士がもっと増えてほしい」と感じるポイントは?

やはり管理栄養士という専門家に対しては「頼りにしたい」という気持ちが強いので、笑顔で接しやすい態度を持ってくれるという点はとてもありがたいと感じます。「摂食障害という病気は、年単位で付き合うものなので、一緒に頑張りましょう」と伴走するような姿勢を見せてくださった点も良かったです。摂食障害に関する専門性としても、「なぜ娘がヴィーガンにのめり込んでしまっているのか」ということを推測しながら患者心理を説明してくれた点があったため、信頼感に繋がりました。

Allyable(当団体)が考える「摂食障害の栄養指導」のこれから

Allyableはこれまで、「元当事者にできること」と「専門家がいてこそできること」の間を探りながら、試行錯誤を重ねてきました。啓蒙活動や居場所づくりが「本当に役に立つのだろうか」と悩んだ時期もありましたが、「必要な人に必要な情報や支えが届く場所がなければ、良い取り組みも届かない」という気づきがきっかけとなりました。そこから、ピアサポートサービス「Ally Me(アライミー)」や、少人数でも深く刺さる情報を届けるWebメディア「たべこわちゃん」など、「頼れる場所」づくりに大きく舵を切ってきました。
そして今、Allyableは「摂食障害に特化した栄養指導」を未来につなぐ取り組みとして、管理栄養士の養成支援とオンライン栄養指導サービス「Eatally(イータリー)*」を本格的に立ち上げています。元当事者と医療専門家が協働する私たちだからこそ、安心できて実践的な栄養支援の形を、これからも一歩ずつ社会に広げていきます。

*立ち上げに向けて、2025年5月~6月にかけてクラウドファンディングを実施させていただきました。応援・ご支援いただいた皆様、誠にありがとうございました。