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「わたしらしく働く」を見つけるまで。— 摂食障害とキャリアのリアル②

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「フルタイムで働けないと“ちゃんとしてない”のかな?」「摂食障害を抱えていても、働けるのかな?」摂食障害を抱えながらも就労にチャレンジしたいと思う方の中には、こんな不安を抱えている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、摂食障害と共に、自分にとって心地よい働き方を見つけてきた3人の当事者に登壇いただき、転職、フリーランス、就労継続支援など、さまざまな働き方を選んできた背景や、そのときどきの気持ちの揺れ、そして「いま感じていること」をリアルに語っていただきました。
この記事に紹介されている人のプロフィール
モモさん、みどりさん、すんさん

モモさん
複雑な家庭環境を背景に拒食症を発症。精神科デイケアに通所などののち、現在はほぼ寛解。
精神科デイケア通所、アルバイトを経て、就労継続事業所に通所。現在は障害者雇用での就労も見据え活動中。

みどりさん
見た目に対するコンプレックスがきっかけで、高校生の頃より過食嘔吐を発症。人間関係の改善や転職を経て症状が改善。
飲食店勤務、パラリーガル、保険営業を経て、司法書士・中小企業診断士として働く。

すんさん
ダイエットがきっかけで拒食を発症、その後ストレスが原因で過食へ。カウンセリングや環境の変化を経て寛解。
経営コンサルタント、大学院通学、バックオフィスを経て、ガバナンスコンサルタントとして勤務。

本記事は当事者の方にご登壇いただいた対談トークセッションイベント”「わたしらしく働く」を見つけるまで。— 摂食障害とキャリアのリアル”の後編になります。
前編を読みたい方はこちらから→「わたしらしく働く」を見つけるまで。— 摂食障害とキャリアのリアル①

職場にカミングアウトする?しない?

――職場でのカミングアウトのメリットやデメリットはどのようなものだったと感じますか?

モモ:はい。障害者の入居施設で働いていたんですが、スタッフが少人数で、利用者さんの前では「普通」の人として振る舞わなければならないのが大変でした。コロナの影響で歓迎会などの集まりがなかったのは私にとっては好都合で助かりましたね。ただ、自分の状態を上手く説明できるかどうかというよりも、初めての職場で緊張しているところが強くて、例えばお昼は一人で食べたいというように具体的なことも言えば良かったかな、と後から思いました。

――その後、デイケアに通って自己理解が進んだことで、職場での伝え方も変わりましたか?

モモ:はい。デイケアで生活リズムを整えることができて、配慮事項の伝え方もスタッフに相談しました。以前の事業所の面接では、書類に「昼食が苦手」「不安障害もある」など詳しく書きすぎて駄目になってしまいました。今の職場では、特に配慮は伝えずに自分でお昼を避けて働く形にしていますが、落ち着いて働けています。

――みどりさんは、職場でカミングアウトされたことはありますか?メリットやデメリットを感じましたか?

みどり:カミングアウトはしていないです。一番症状が出ていたのは10年以上前ですが、当時は自分でも摂食障害を抱えているという意識もなく、知識もなく、配慮を求めるという発想もありませんでした。有給も5年のうち半日しか取れないような環境で、何かを求めるなんて考えられませんでしたね。症状に対するリテラシーがなく、太らないためにずるをしているという感じの意識でした。

――病識が出たあと、「この人には知ってほしい」と思うような瞬間はありましたか?

みどり:はい。最近になってやっと、自分のことを言語化できるようになって、今のパートナーには伝えられるようになりました。職場では、保険営業の時は自由に休めてしまうので休んでしまうということもありました。ただ、過食嘔吐が原因か分からないですが、だんだんお腹を壊しやすくなったり、あと歯が弱くなったりとかいろいろ体を壊す機会はやっぱり増えていって、食べ物について調べたり勉強したりして、知識をつけていったことで回復していったところもあるかもしれないですね。

――すんさんは転職の面接時にカミングアウトされたとのことでしたが、そのときの工夫や感じたことはありますか?

すん:はい。タイミングは、エージェントの方のアドバイスも受けて、面接が進んでから「ちなみに、摂食障害という症状を経験したことがあって、その名残で、人前で食べられません、業務に支障はないですが飲み会で食べていなくても気にしないでください」という言い方をしました。メリットとしては、食べていなくても、お昼に飲み物だけで過ごしていても、気にしないでもらうことができました。デメリットとしては、エージェントによっては連絡が来なくなることもあり、精神疾患というのを気にする人もいるのかな、なんて思いました。

――カミングアウトすることに迷いはなかったですか?

すん:当時は人前ではお箸を持った手が固まってそのまま動けなくなるくらい食べられなかったので、さすがに言わないとまずいな、この人何で採用したんだろうと後から思われたら困るなと思ったので、言わないということは考えにくかったですね。ただ、最近の転職では言っていません。人前で食べられるようにはなっていますし、「これからは、ちゃんと寛解した人として過ごすんだ」という意気込みのような意味もありました。

就職や転職にチャレンジする皆さんへ

――これから就職や転職を考えている方へ、それぞれからメッセージをいただけたらと思います。

モモ:はい。私は自分の体力やメンタルが整ってきたのが本当に最近で、母や家族との関係を変えていったことが大きかったと思いますし、それで仕事選びや仕事の仕方も変わったように思います。最初は無理かなと思っても、やってみなきゃ分からないこともたくさんありました。
あと、みどりさんもおっしゃっていたように、私も食べ物の基礎知識をネットで調べたりしていました。ダイエットとかホットヨガの広告とか気になってしまうこともありますけれど、基礎知識として栄養バランスのこととか、ルッキズムやフェミニズム、ジェンダーなどにも興味が出てきて、摂食障害と社会とのつながりも考えるようになりました。
そうした経験を経て、「周りに合わせなくていい」「自分のやりたい働き方を大事にしていいんだ」と思えるようになってきました。自分らしく働ける道が、皆さんにもきっとあると思います。

みどり:私は昔から自分への無価値感が強かったのに、その気持ちを強めるような職場を選んでしまっていたと思います。ルッキズムにもすごく影響されていて、「綺麗じゃないと許せない、綺麗じゃなくなることが怖い」と思っていました。
自分の摂食障害は大した症状じゃない、軽いって思っていましたけれど、うまくいかないことが続いて、「もしかしたら今の方向じゃないのかも」と気づくようになって、カウンセリングを受けたり、本を読んだりしました。そうやって少しずつ自分を知っていく中で、無理をしない選択をするようになり、今のキャリアにつながってきた気がします。
体力もなかったし、首を壊して朝起き上がれないような時もありました。でも、無理をしないこと、自分を大切にすることを意識していたら、自然と今のキャリアにたどり着いていました。そんな風に自分を知っていくことが大切だと思います。

すん:はい。私は摂食障害があった時期も含めて、結構転職をしています。最初は病識がなく、ただつらくて仕方ないという感じでした。でも徐々に落ち着いてきて、人前で普通に食べることにもチャレンジできるようになりました。
雇用形態はそんなに変わっていませんが、摂食障害とどう向き合いながら働くかというスタンスが変わってきたと思います。入院していた時期は、「自分なんかもう社会に戻れないんじゃないか」と思っていました。でも、ゆっくり治っていくうちに、自分がやりたい仕事に少しずつ近づけるようになりました。
今がつらくても、ずっとそのままじゃない。少しずつ良くなっていくこともある、そんなケースもあるということを伝えられたら嬉しいです。

<編集後記>

今回は、就労継続支援事業所での勤務から障害者雇用でのステップアップに挑戦するモモさん、司法書士や中小企業診断士、行政書士として雇用と個人事業主の両方で働くみどりさん、何度か転職を経験しコンサルタントとして就労するすんさんの3人のお話をお聞きしました。

生活リズムを整え自分を知る機会をどうしたら作っていけるか。職場へのカミングアウトや配慮要請をどのように行うか、それとも行わないか。色々と迷う要素はあるにしても、3人のお話の中核にあるのは「自分の今の状態、自分は何がしたくて何ならできるか」という自己理解と自分に対する「納得感」なのかな、と、お話を聞いて感じました。

「自分に合った生き方、働き方は、きっとどこかにある、きっといつかそれに巡り合える」そんなメッセージが、今、摂食障害を抱えながらの就労に不安を抱えている方に、伝わったら嬉しいなと感じました。