留学という夢の裏で起きた食との関係性の変化
—— 摂食障害の症状が始まったきっかけを教えてください。
今振り返ると、摂食障害の症状が始まったのは大学3年の時の留学中でした。留学は私にとってずっと憧れだったのですが、実際に行ってみると想像以上に大変でした。もともと人前で話すのがすごく苦手なのに現地のサークルに入ろうとしたり、一人暮らしも初めてという状況でした。物価の高い国で、「絶対にこの経験を無駄にできない」というプレッシャーも感じていました。
さらに、帰国後の進路についても決めなければならない時期でした。親からは「4年で絶対卒業して」と言われていたので、大学院に進むなら卒論を始める必要があったし、就活をするにしても準備が必要でした。どちらの道に進むか早く決めて、準備を始めておかなければいけない状況だったんです。
そんな中で私は、生活費を決まった金額に抑える、三食絶対自炊する、勉強の目標も達成する、就活の対策も進める、といった計画を立てました。今思うと、かなりハードな目標を自分に課してしまっていたなと思います。そして徐々に、食べることでストレスを紛らわせるようになっていきました。最初は摂食障害だという自覚もなく、ただ「いつもよりも多く食べちゃうな」と思っていました。その後、コロナの影響もあって、予定より早く日本に帰国することになったんです。
—— 日本に帰国してからはどうでしたか?
当時、空港で両親が私を見た時、誰か分からないぐらい太っていました。それが親戚中のネタみたいになってしまって辛かったです。「こんな状態で就活なんてできない」と思いました。新しい人に会って面接を受けるなんて考えられないし、やりたいことも分からないような状態でした。
結局、就活ができないからという理由で院試を受けることにしました。院試を受ける年には朝5時から走って、食事も決まったものしか食べないという生活をしていました。今思うと本当に偏った制限をしていたのですが、当時は「久しぶりに自分をコントロールできている」という感覚がありました。
院試に合格して、卒論も書いて、大学院進学が決まったのが12月頃でした。安心したのか、そこから一気に食べる量が増えてしまいました。翌年4月に大学院に入学したのですが、そこから吐くことを覚えてしまったんです。その後も過食嘔吐の状態がしばらく続いていました。
—— いつ頃から摂食障害だという自覚を持ち始めたんでしょうか?
院試が終わって食べ始めた時です。院試の時はちょっと痩せすぎぐらいまで痩せていたので、体の摂理的には食べ始めたのは当たり前なのかもしれません。でもある日、「私、食欲を自分でコントロールできてないかも」って気がついて。
拒食の時はすごくコントロールできているっていう気持ちがあったから、コントロールできないっておかしいと思ったんです。それで検索したり、SNSで当事者の方の発信を見るようになりました。そういう投稿を見て「あっ、私もそうかも」って思うようになったんです。「何か分からない」っていう不安な状況から「この現象には名前があるんだ」っていう感覚になって安心した部分もありました。
結局、摂食障害が治らないまま大学院を卒業して社会人になって、今は社会人2年目という状況です。
人に打ち明けたきっかけ
—— 誰かに摂食障害のことを話したことはありますか?
学部時代にお世話になった先生と、就職した会社の人事の方に話しました。
先生に話したのは、大学院で修論を書くタイミングで精神的にきつくなった時でした。当時は、うまくいかないことがあると全部食に逃がすような感じになってしまっていて…。大学院生で収入源もそんなにない中で、過食嘔吐にはお金もかかるし、どうしようと思っていました。
それで先生に「実は食に逃げちゃうんです」って相談したんです。正直あまり言いたくはなかったんですけど、修論を書き終わらずに卒業できないと、すでに内定していた就活も意味がなくなってしまうし、現状を相談するしかないって思って。その先生は摂食障害の知り合いがいたらしく、「話は聞いたことがあるよ」と言ってくれました。修論のスケジュールを細かく立ててくれたり、色々助けてもらいました。「この先生のアドバイスを参考にすれば修論はなんとかなりそう」と思えてからは、精神的にすごく楽になりました。
——会社ではどなたかに話されたことはありますか?
その後、入社した会社で働き始めたんですが、人前が苦手な私には向いていない仕事でした。うまくいかないことの反動でたくさん食べて吐いて、次の日の朝仕事に行けなくなったりもして。それで配属先の先輩に相談したんです。そうしたら摂食障害のことも含めて話すことになって、その流れで人事にも話が行くことになりました。
人事の方は「気づかなくてごめんね」とすごく謝ってくれました。入社前や入社式で、食事をするイベントがいくつかあったんですが、どこで何を食べるか事前にわからない食事は、私にとって不安なイベントだったんです。人事の方は、そういうことに気づけなかったと謝ってくれて。
その人事の方には今も色々なことを相談させていただいていて、ずっとお世話になっています。
同じ痛みを抱える人たちへ
—— 同じように悩んでいる人に向けて、伝えたいことはありますか?
摂食障害って「見た目を気にしているから」とか「痩せたいから」っていう風に、見栄が原因だと思われがちで、他の人に言いづらいところがあると思うんです。でも実際は、いろんな背景があってなるものだと思います。私が伝えたいのは、痩せていることだけが摂食障害の条件ではないということです。標準体重以上で、一見健康そうに見える人でも、実際には過食嘔吐に悩んでいるということもあると思います。
痩せている時って、食事制限がうまくいってる時だから、個人的にはある意味、コントロールできている感覚があったんです。でも沢山食べて体重が増えた時、自制できない自分への嫌悪感もあるし、周りからも「太ってるんだから元気でしょ」って見られて、精神的にはとても辛くて。食にかまけて仕事や勉強を頑張れていないんじゃないかっていう気持ちもあるし、甘えているように見られることもありました。
「私はそんなに痩せてないから病気じゃない」と思っている人がいたら、体型は関係ないよって伝えたいです。摂食障害にも色々な状態があるんだっていうことを知ってもらえたらと思います。