治療を受ける中で、どんなことがしんどかった？治療の中で得られたものは？
すん：では第一部、元当事者の声を聞く時間に入っていきます。今回のテーマは「治療」ということで、まいさんと私すんで進めていきたいと思います。まずは自己紹介として、どんな症状を経験し、どんな治療を受けたか、どうして治療を受けることにしたのかといったことをお話いただきたいと思います。ではまいさん、お願いします。
まい：まいといいます。高校1年生の頃から摂食障害が始まりました。時々非嘔吐の過食になることもありましたが、主に拒食で、28歳頃まで続きました。うつ病も併発していて、気分の落ち込みも強かったです。治療は主に大学病院の精神科に通っていて、入院も小さいものも含めると10回くらい経験しています。家族療法、インナーチャイルド療法、入院中には体重を増やすための行動療法なども受けました。
治療を受けようと思ったのは、信頼していた主治医から勧められたというのと、「摂食障害の専門療法ってちょっと効きそうだし、試してみたいな」っていう興味もあって、始めました。今日はよろしくお願いします。
すん：ありがとうございます。私も簡単に自己紹介をさせていただきますね。私は大学2～3年の頃、ダイエットをきっかけに拒食が始まりました。当時は「痩せられてラッキー」くらいの気持ちで、あまり病識もありませんでした。その後、徐々に非嘔吐の過食に移行し、27〜28歳くらいの頃が過食のピークでした。仕事や大学院の研究などのストレスもあり、かなり苦しかった時期です。
治療は、まず大学の保健センターに通い始めて、摂食障害専門のカウンセラーさんを紹介していただきました。通院もしつつ、主にカウンセリングを受け、認知行動療法を受けることになりました。当時は非嘔吐の過食が酷くて、体型の変化が激しく、太るのが嫌で仕方なく、痩せられるなら何でも取り組むしかない、という藁にもすがる思いで取り組んでいました。
すん：では、もう少し治療の中身についてお聞きしたいと思います。治療の中で「これがしんどかった」ということがあれば、ぜひ教えてください。
まい：そうですね、特に低体重のときに行った行動療法は、ただ退院するためだけに、とにかく体重を増やさなきゃと食べて、その結果として回復期の過食になったのが辛かったです。
専門的な治療という意味で言うと、インナーチャイルド療法を受けたと言いましたけれど、自分と向き合う過程が多かったので、向き合った後苦しくて、終わった後はぐったりして寝込んでしまったりということもあり、入院という環境下だからできたことだなと思います。
あと、家族療法では、主治医から母に「摂食障害とは」というような紙を書いたのを渡されて、まずこれを渡してみて、というところから始まりました。今思うと母も母なりに気にしていたのかもしれませんが、私としてはあまり反応がないように思えて。それを主治医に伝えたところ、「まいちゃんのお母さんは変えようとしても駄目だから、まいちゃんが変わらないと駄目だね」と言われて。私はその言葉を素直に受け止めたんですが、母と揉めた時に「だって先生がそう言ってたもん」と言ってしまって、結果として母が病院に不信感を抱くきっかけになりました。そういうのは、ちょっとしんどかったですね。
すん：ありがとうございます。インナーチャイルド療法ではかなりご自身と向き合った感じなんですね。一方で家族療法は、まいさんのご家庭には合わなかったのかなという印象を受けました。
まい：そうですね。インナーチャイルド療法も最初は、「何でこんな胡散臭いことしなきゃいけないんだろう」って思ってたんです。体を横にして、自分の子ども時代を思い出して、お腹にパワーが集まって来るのを感じて…みたいな。でも、主治医がそれに力を入れているんだから何か意味があるに違いないと思って言われるがままにやってみたら、意外と入り込めて、自分を見つめ直す機会になりました。
すん：なるほど。ではその治療を通じて、得られたものはありましたか？
まい：ありましたね。自分って本当はこうしたかったんだ、小さい時にこういう風に向き合って欲しかったんだ、って気づくことができました。
入院中に、主治医と一緒に言語化の練習もしてたんです。別に特別な練習じゃなくて、自分の気持ちを自分の言葉で言えるようになるまで、主治医がひたすら待ってくれる。それを繰り返しているうちに、今まで自傷や拒食に向いていた感情が、ちょっとずつ外に表出できるようになってきて、初めて「自分の感情を意識する」きっかけになったと思います。
すん：自分を見つめ直すって、一人ではなかなか難しいけど、治療の力を借りることで、少しずつできるようになるんだなと、改めて感じました。
すん：私自身の治療についても少しお話させていただきますね。とにかく「太っていくことがつらい」という気持ちが強くて、「何でもいいから治療を受けたい」と思って始めたんですが、それでも当時は自己嫌悪がとても酷い状態でした。認知行動療法では、食事記録をつけたり、どんな感情でどんな行動を取ったのかを振り返る必要がありました。でも、当時は精神的な余裕がなかなかなくて、しんどかったです。
それでも、カウンセラーさんもさすがの腕というところで、徐々に私の心の緊張やストレス要因を紐解いてくれたことで、最近では食事記録も少しずつ書けるようになってきました。「治療を受け入れられるタイミングと、そうでないタイミングがある」ということを実感しました。
摂食障害になったらどこでどんな治療を受けることが多い？
すん：ここからは第二部に入っていきたいと思います。次は、専門家の山内先生にもご参加いただいて、元当事者と専門家との対話という形で進めていきます。
それぞれの経験や感じたことに「正解」はないと思いますし、治療の受け止め方もその人その人で違うものです。これからの対談では、あくまでも「一つの例」として聞いていただきたいと思います。
では早速中身に入ります。まず、「どこでどんな治療を受けることが多いのか？」というテーマについて、山内先生にお伺いしたいと思います。
山内先生：基本的に、摂食障害は心の問題を扱うことが大事なので、精神科や心療内科での治療が中心ですが、治療までのルートは、本当に人それぞれです。たとえば学校のカウンセリングルームや、内科・産婦人科などから紹介されて精神科に来られる方もいます。最初に身体の不調で内科を受診したけれども身体の問題が見つからず、紹介されて精神科につながる方は多いです。また、まいさんのように、うつ病を合併していると、うつ病治療を目的に精神科に受診し、その後摂食障害の治療が並行して行われるようになる場合もあります。
一方で、身体の状態がとても悪いという方は、精神的治療の前に身体の治療をしなければならないですね。大学病院などでは極端に痩せた方の入院を受け入れることもあります。まずは身体の状態を良くするための入院ですが、栄養指導や摂食障害について学ぶ機会もあり、身体の治療だけではありません。
ただし、入院治療を受ける方はごく一部で、ほとんどの方は外来治療になります。しかし、すべての精神科外来で摂食障害の診療ができるかというとそれは難しい。外来診療の時間が限られていることもあり、時間を掛けた丁寧な対応が難しいこともあります。
そのため、転院してより専門性の高い医療機関に紹介されるということもあります。都内のような地域では選択肢が豊富ですが、地方では摂食障害の専門医がいないこともあるので、一般の精神科外来で心の問題を中心に診てもらう中で摂食障害についても少しずつ対応してもらう場合も多いと思います。
すん：ありがとうございます。摂食障害の専門治療を受けられるのは一部で、私やまいさんは結構レアケースだったのかなと感じました。また、心の問題が深刻なのか、体の問題が深刻なのかによっても、治療の方向が変わるというのを感じました。
治療者と「相性が合わないかも」と感じてしまった時はどうしたら良い？
すん：では次の質問です。「治療者と相性が合わないと感じたときはどうしたらいいか？」というテーマです。まいさん、何かこのようなことを感じた場面などがあれば教えてください。
まい：はい。私自身、主治医のことを信頼していても、モヤモヤすることがあったり、主治医を信頼するあまりに良い患者でいなきゃと思って言いたいことを言えずに終わってしまったりという経験がありました。
山内先生：はい。これは本当によくあることです。治療には相性もありますし、第一印象や先生の性別なども関係します。たとえば性被害を経験された方は、女性の先生でないと話しにくいということもあるでしょう。
「なんとなく合わないな」と思ったら、思い切って病院を変えるのもひとつの方法です。無理して通い続けて治療が進まないよりは、自分に合う先生を探した方がいいです。
ただし、検査データなどは次の病院に引き継いでもらうのが良いので、「診療情報提供書を書いてください」と遠慮なくお願いしましょう。失礼ではありませんし、医師側もそのような要望は慣れていますので。
ただ注意点として、「合わない」と感じているのは、実は病気にそう言わされているのかもしれないということです。治療を受けることに抵抗がある状態では、どんな病院に行ってどんな先生に診てもらっても否定的な気持ちになることがあります。
そんなときは、家族や信頼できる人に相談して、「もう少し頑張ってみたら？」と言われたならそういう声にも耳を傾けてみてもらいたいです。反対に、家族も「そう思うなら違うところに移ってもいいんじゃない？」と言ってもらえるならそうするのも良いかなと思います。
すん：ありがとうございます。「相性が合わないのは人と人との関係だから当たり前」と思いつつ、「それを病気が言わせている可能性もある」というのは、とても大事な視点ですね。
ちなみにまいさんのように「抵抗がある」というよりは、「言うことを聞きすぎてしまう」という相性の合わなさもあるのでしょうか？
山内先生：はい、そうですね。診察室で「良い患者さん」を演じている方も多いように思います。ただ、私たち医師は患者さんの言葉だけでなく、受け答えの仕方や行動、表情なども見ています。
「この方は、言いたいことが言えていないな」と感じた場合は、患者さんの話す言葉の裏にある気持ちを探るようにしています。本音がどこにあるのかを見極めながら診療していますので、言えないことがあっても、ある程度は気づかれている部分もあると思いますよ。
すん：ありがとうございます。病気のさなかにいる中で自分の状態になかなか気付きにくいという時は、第三者の目を借りるというのも良いな、と感じました。
