摂食障害は「若い女性」の病気?
摂食障害ってなに?

摂食障害は「若い女性」の病気?

摂食障害は、体重や体型、容姿を気にしてダイエットをする人が多い「若い女性」がなる病気…そんなイメージがあるかもしれません。けれど実は、あなたの身近な誰かがダイエット以外のきっかけで苦しんでいる可能性もあるんです。
摂食障害の背景やきっかけについて正しい知識を身につけることが、そんな「苦しんでいる誰か」の助けに繋がることもあるかもしれません。
登場人物
  • あさり君
    あさり君

    柔道選手を目指して部活に打ち込む大学2年生。競技成績が伸び悩んでおり、プロの道を諦めて就職するか悩み中。ストイックな性格で、体重管理や試合のプレッシャーからくるストレスも1人で抱え込みがち。

  • もろこし君
    もろこし君

    スポーツ大好き大学2年生。ぱせりちゃんのパートナーで、食べられなかったり吐いてしまったりするぱせりちゃんのことを心配している。あさり君とは小さい頃に同じ柔道教室に通った幼馴染でもある。

摂食障害は「女性だけ」の病気?

二人ともこんにちは!ぱせりちゃんとはいつもお話してる、もぐもぐです。自分の身体とうまく付き合えなくてしんどい想いをしている人間さんのために、妖精界からやってきました!

…えーっと…

…えーっと…

まあ、私のことは良いとして。二人とも、今「女の子って大変だよなあ」って言ってたよね。でもね、摂食障害って、女の子…つまり、若い女性だけの問題じゃないんだよ。

え、そうなの?でも、俺の周りにはめちゃめちゃダイエットして吐いてる男とか、まったく食べない男とか、いないけど…

確かに、身の回りにそういう食生活をしている男性は目立たないのかもしれないね。でも良く考えてみて。友達とご飯に誘われたときに「ご飯を食べたくない」って理由で断ったり、食べた後に吐いちゃってることを打ち明けたり…もろこし君だったら、なんの抵抗もなく言い出せるかな?

うーん…まあ確かに、言いづらいかもな。俺だって、ぱせりちゃんに言われたときはめちゃめちゃびっくりしたし、ぱせりちゃんも言いづらかったって言ってた。

そうだよね。もちろん人にもよるけど、摂食障害患者さんの中には、誰かに打ち明けて、差別や偏見の目にさらされてしまうかも…と不安に思ったりして、中々言えないという人も多いんだ。
けれど実際には、日本においては女性の摂食障害患者さんの20人に対して1人の割合で男性の摂食障害患者さんが存在すると言われているよ。それに、世界的なデータを見ると、アメリカでは摂食障害患者の約25%は男性というデータもあるんだ。
一方で、摂食障害の男性は、「摂食障害は女性の問題」という固定観念のせいもあって、自分の症状を問題だと認識しない傾向があるんだって。

えー!そうなんだ!俺、全然知らなかったけど…確かに女の子だけの問題だって思い込んでたな。男の人でも、ぱせりちゃんと同じような悩みを持つ人がいるってことかぁ…

摂食障害は「若い」かつ「女性」だけの病気?

もろこし君くん、せっかくだからついでに…さっき、女の「子」って表現をしていたけど、実は若い女性に限った話でもないんだよ。アメリカでは、50歳以上の女性の13.3%が現在摂食障害の症状があると答えたアンケート調査があったりするんだ。日本に目を移すと、摂食障害の初診患者さんについて、2010年時点で30代が20.1%、40代以上が8.8%いるというデータがあるの。年齢にかかわらず苦しんでいる人はいるってことも知っておいてほしいな!

えええ、そうなのか!知らなかった…大人になっても関係あるんだな。

あとね、これも是非知っておいてほしいんだけど…実は、LGBTQ+の方々にも摂食障害の人は多いという統計データがあるんだ。同じくアメリカにおける調査では、13歳から24歳のLGBTQ+の人のうち、9%は摂食障害の診断を受けているほか、29%の方は正式に診断が降りていないけれど摂食障害の症状を自覚していると言われているよ。

なるほどなぁ。女の人…だけじゃなくって、ええと、色んな人がぱせりちゃんと同じくしんどい思いをしてるってことだよな。うーん、だとしたら、ぱせりちゃんにも「自分だけじゃないから安心して」って教えてやりたいなぁ…

そうだね。自分だけじゃないって気持ちになると少し心が軽くなることもあるかもしれないから、本人が知りたそうにしている時には、そんな風に教えてあげるのも良いかもしれないね。

うん、ありがとう!…って、やべっ!俺バイトの時間だ!じゃあまたな、あさり君!また話そうぜー!

お、おう!またなー!!

…あさり君くん、気分はどう?話しづらいかもしれないけど、私に話せることがあったら言ってね。

うん、いや…俺自身、ちょっと最近自分おかしいよなって思っててさ。でも、親にも友達にもコーチにも言えないし…もろこし君の彼女が摂食障害ってやつに苦しんでるって聞いて、ギクッとしたというか。自分自身が病気だなんてまだ思えないけど、もぐもぐちゃんの話を聞いてて、男性もかかることがある病気なんだって、ちょっと安心した気持ちもあるんだ。

ひとりで抱えてると、しんどい時もあるよね。病気だと認めることは、時には抵抗を感じてしまうかもしれないけど、回復への大事な一歩でもあるよ。あさり君が拒食や過食、そして嘔吐や過剰な運動に翻弄されているように感じて悩んでいるのは、なんでだろう?本当は、どうなりたかったのかな。

俺は…柔道で結果を出したくて、アスリートとして自分をちゃんとコントロールするべきだって思って…うーん、でも…いつからだろう。何でこんなことになっちゃったんだろうって考えると、ちょっとまだ頭がごちゃごちゃしてて追いつかないや。ごめん。

謝る必要なんて全くないよ!あさり君は今まで、ひとりで向き合って頑張ってきたのかな、と感じたよ。ひとりで頭の中を整理したり、自分の中にある思考のクセみたいなものを見つけることってすごく難しいから、良ければ誰かに助けてもらうことも考えてみてね。例えば、心理カウンセラーさんはカウンセリングを通じて、あさり君の心の奥底にある根本的な原因を解きほぐしたり、自分の思考のクセを見つける伴走をしてくれたりするよ。他にも、ピアサポーターと呼ばれる回復した先輩に相談してみたり、体験談を読むことで少し自分との共通点を知ることも、ヒントになるかもしれないね。

男性摂食障害当事者の体験談はこちら→OB・OG訪問室

カウンセリング、ピアサポーター…なんか全部馴染みがないなぁ。人に相談して何か変わるのかな?結局自分の問題なんじゃないの??

そうだね、結局は自分の問題、という考え方もあるかもしれない。けれど自分だけで症状をコントロールできていたら、ここまであさり君は困っていないんじゃないかなぁ。人に相談しただけで、すぐに明日から症状がなくなる!といった劇的な変化はないかもしれないけれど…少し気持ちを楽にしてくれるかもしれないよ。実際に、ちゃんとトレーニングを受けたピアサポーターによる伴走支援を受けた結果、精神疾患や精神障害に悩む人の再発率が下がったり、QOL(生活の質)が向上したという研究も発表されたりしているんだ。

そうなんだ…うーん、まだちょっと乗り気にはなれないけど、考えてみるよ。教えてくれてサンキュな。

こちらこそ、聞いてくれてありがとう!誰かに相談すること自体、人によってハードルの感じ方は異なるから、この人になら・このタイミングなら話して良いかなって自分が思えるタイミングで、話してみてね。
ただ、これだけは言わせて!摂食障害はちゃんとした病気なんだ。病気の中には、例えば軽い風邪のように、専門家の介入がなくても自然と治るようなものもあるかもしれないけど、専門家に頼ったり、実際に回復した先輩の話を一部参考にしたりすると早く治るケースが多いよね。摂食障害も同じ。病気だからこそ、自分一人で何とかしようとするよりも、周囲の助けを借りることで早く脱出できることがあるよ。自分の心と身体のためにも、抱え込みすぎず、早めに周りを頼ってね。

…うん、そうだな。まだちょっと自分が心の病気にかかってるって、認めたくない気持ちもあるけど…でも、ちゃんと考えてみるよ。親とか友達とか、カウンセラーとかピアサポーターとか…頼ることも含めて。

うん、もちろん私のことも良ければ頼ってね!一緒に少しずつ向き合っていこう!

おわりに

摂食症には痩せてスリムになりたいという考えが背景にありますが、一方で太ると「自己管理ができていなくてだらしない」などとネガティブな受け止め方も存在しています。男性は女性に比べて痩せたいというより、筋肉質を理想にすることが多いですが、体重を完璧に自己管理したいという完璧主義な性格は摂食症の男女に共通する特徴です。摂食症が痩せた女性をイメージされることから、男性の摂食症患者は恥の意識が特に強く、病院やカウンセリングなどに受診できないことが多いことが知られています。摂食症は人それぞれの心理的問題が影響していることから、性別ではなく個別の悩みとして捉えるのが良いでしょう。
運動選手やモデル、バレリーナなど痩せることで成績が伸びたり、周囲からの評価が上がったりする体験があると体重コントロールが目的の一つになります。そのような中で、体重が増えてしまうと「自己管理ができていなくてだらしがない」などとネガティブな受け止め方をして、完璧主義な性格の方ではより厳格に食事をコントロールしようとします。このような無理が重なることは、摂食症の発症リスクとなります。男性は女性に比べて筋肉質を理想の体型とすることが多いですが、男性も女性と同様に太りたくないという強い思いから摂食症になる方が少なくありません。また、中高年の摂食症患者もとても多くなり、今では若い女性だけの病気ではなくなりました。「男性なのに」「いい歳なのに」体重に悩んで食事がうまくとれないことを恥ずかしく思う気持ちは、患者が医療機関やカウンセリングに受診できない理由の一つです。摂食症につながる悩みは患者それぞれで異なるため、自分だけで判断せずまわりの意見や助けを得るようにしましょう。

男性の摂食障害・摂食症体験記はこちらから→男性摂食障害当事者の体験談

参考文献:
ANAD. “General Eating Disorder Statistics”. ANAD.org.
https://anad.org/eating-disorder-statistic/ (2024.3.30参照)
The Trevor Project, National Eating Disorders Association, & Reasons Eating Disorder Center (2018). Eating Disorders Among LGBTQ Youth: A 2018 National Assessment.
Austin SB, Nelson LA, Birkett MA, Calzo JP, Everett B. Eating disorder symptoms and obesity at the intersections of gender, ethnicity, and sexual orientation in US high school students. Am J Public Health. 2013;103(2):e16–22. https://doi.org/10.2105/AJPH.2012.301150.
Deloitte Access Economics. The Social and Economic Cost of Eating Disorders in the United States of America: A Report for the Strategic Training Initiative for the Prevention of Eating Disorders and the Academy for Eating Disorders. June 2020. https://www.hsph.harvard.edu/striped/report-economic-costs-of-eating-disorders/.
Eating Disorders in LGBTQ+ Populations. National Eating Disorder Association. (2018, February 21). Retrieved February 22, 2021. https://www.nationaleatingdisorders.org/learn/general-information/lgbtq
Mental Health America. “Evidence for Peer Support”. Mental Health America.org.
https://mhanational.org/sites/default/files/Evidence%20for%20Peer%20Support%20May%202019.pdf
中高年の摂食障害:山内 常生. 精神科臨床サービス(1883-0463)15巻4号 Page519-522(2015.11)